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才色兼備の名妓として名を馳せた松葉屋の遊女・瀬川のプライベートルーム。瀬川の背後にゴージャスな箪笥が見えます(『松葉屋瀬川』三代歌川豊国 画)
箪笥誕生以前の収納具ってどんなもの?
英語でも「TANSU」と呼ばれる和箪笥。桐やケヤキなどの木材でつくられている収納家具で、抽出し(ひきだし)の引き手や角に金属製の飾りが付いていたりします。特に江戸時代から明治、大正、昭和初期までにつくられた和箪笥は「時代箪笥」と呼ばれ、アンティーク家具ファンから高い人気を集めています。なかにはびっくりするような値段がつく和箪笥も。

味のある和箪笥は“和モダン”なスタイルにもマッチ!
さて、そんな和箪笥ですが、その歴史は意外と浅く、誕生したのは江戸時代になってからのことでした。まずは「箪笥がない時代はどんな収納具があったの?」というお話から。
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むかーし、むかし、箪笥のない時代のこと。
人々は衣類や道具類を収納するために、こんなものを使っていました。

葛籠。
「つづら」と読みます。これは正倉院の宝物庫に収蔵されている葛籠です。写真の葛籠は柳の枝で編んであるもので、表面は漆でコーティングされています。漆には抗菌、防虫、防水などさまざまな効果があるんです。だいたい50センチ四方とサイズも大きいので、衣類などを収納したんでしょうか。
今ではあまり(というかほとんど)お目にかからない葛籠ですが、かつては代表的な収納具でした。箪笥が誕生したあとも広く使われていました。昔話にもしばしば登場しますよね。

葛籠が登場する昔話といえば『舌切りスズメ』が有名。欲張りバアさんが大きな葛籠を選んだものだから、サァ、たいへん!(『昔噺舌切雀』歌川芳盛 画)
行李(こうり)。
江戸時代に広く普及した葛籠の一種で収納具としていろんな場面で活躍しました。旅人が荷物を入れたり、飛脚が郵便物を入れたり……などなど。昭和初期まで現役バリバリだった行李ですが、こちらも最近ではめっきり見かけなくなりましたねぇ。

柳行李の産地として但馬国(現・兵庫県豊岡市など)が有名でした(『大日本物産図会 但馬国 柳行李製図』三代歌川広重 画)
ほかに箪笥誕生以前から活躍していた収納具がこれ。

鳳凰円文螺鈿唐櫃
唐櫃(からびつ)。
脚のある蓋つき収納具。こちらの唐櫃は平安時代のもので、きらめく装飾が施された豪華な仕様。きっと貴族サマの持ち物でしょう。
唐櫃は中国から日本に伝来したといわれ、奈良時代から収納具として活躍した大ベテランです。サイドにヒモを通せるようになっており、持ち運ぶこともできたそう。
ちなみに「櫃(ひつ)」というのは蓋つき収納具のことで、今でも目にする米櫃(こめびつ)も櫃の一種です。「米を入れる蓋つき収納」というわけですな。
着物専用の収納(?)家具としてこんなものもありました。

『誰が袖屏風』部分
衣桁(いこう)。
画像右に見える、神社の鳥居のような家具がそれです。ちなみにこの呼び方になったのは室町時代後期のことで、それ以前は「御衣懸(みぞかけ)」「衣架(いか)」などと呼んだそう。平安貴族の姫君たちも着物をこの衣桁にかけていました。美しい着物をかけることで室内装飾としての役割もあったようです。雅ですなぁ!
もういっちょ、こんな収納具も。

こちら、葵の御紋からもわかるように徳川家の収納具。「櫃」より大型の収納具で「長持(ながもち)」といいます。衣類や寝具などかさばるものの収納にぴったり! 室町時代以降に登場し、主に武家で利用されたんだとか。
この長持も、上の方に長い棒(棹〈さお〉)を通す金具があり、持ち運ぶことができました。江戸時代、かの有名な参覲交代が行われるようになると大名たちは衣類などを入れた長持も国元から江戸までせっせと運んだのです。

『拾万石御加増後初御入国御供立之図』部分
これは江戸時代後期、津山藩の藩主・松平斉孝が江戸での参勤を終え、国へ帰る大名行列を描いたものの一部で、行列の先頭部分にあたります。で、ここに長持を運ぶ人たちがいるのですが……わかりにくいので拡大。

この赤くてデカイ箱が長持です。大の男が6人がかりで運んでます。めちゃくちゃ重たそう。
そもそもビッグサイズの長持は、なかにものを入れたらかなりの重量になり、運ぶのはたいへんでした。そこで、底部に車輪のついた「車長持(くるまながもち)」という便利なものも誕生しました。キャスター付き収納ボックスのご先祖さま、といってもいいでしょう。底が二重になっているものもあり、貴重品を収納するのにうってつけでした。

持ち運びに便利なうえ、鍵もかけられるのでセキュリティもグンバツ! そんな車長持は江戸をはじめ大都市で大人気になりました。特に火事の多い江戸では、一家の財産を車長持に入れておけば有事の際にこれさえ持ち出せば安心、というわけでたいへん重宝されたそう。
ところがこの車長持が大問題になる事件が起きます。
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