江戸時代の厄除け絵メニュー
コロナ騒動で一躍大人気、アマビエってなに!?
新型コロナウイルス感染のニュースが連日のように報道されるなか、ツイッターで話題となったのが「アマビエ」。それがこちら。
なんだか人魚のようにもペンギンのようにも見えますが、とりあえずクセになるヘタウマタッチです。
このアマビエ、江戸時代末期の1846年(弘化3年)に肥後国(現・熊本県)に現れた未確認生物(妖怪とも)で、この絵はそれを伝える瓦版です。書かれている文字をざっくり説明するとこんな感じ。
1846年4月中旬、海中に光るモノが毎晩のように現れた。怪しんだ役人が海へ行くと、アマビエが現れ「この先6年は豊作が続くよ。万一、疫病が流行したらわたしの絵を描いてそれを人に見せるといいよ」と、予言めいたことを言った。
アマビエ、親切なUMAだ……。
このアマビエの予言を受けて、現代のツイッター絵師たちがコロナ終息の願いを込めアマビエを描きはじめたため、ネットの海に数多くのアマビエが出没するようになったのです。
170年以上もの時を経て、現代人がアマビエに願いをたくすという現象。なんだか感慨深いものがあります。
余談ですが、アマビエと同類の未確認生物にアマビコというのもいます。
アマビコもアマビエと同じように予言をして「わたしの姿を絵に描いて人に見せろ」というのですが、もう一歩踏み込んで「その絵を見たら病を免れる」とまでいっています。
よしみんな!アマビエだけじゃなくアマビコも描こう!!
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疫病退治のスペシャリスト!鎮西八郎為朝
江戸時代や明治時代、多くの絵師たちが疫病除けにその姿を描いたのが鎮西八郎こと源為朝(読み:みなもとのためとも)。源頼朝・義経兄弟の叔父にあたる平安武士です。
為朝は身長2mを超える巨躯の持ち主で剛力無双として知られていたそう。しかし「保元の乱」で敗北、伊豆大島へ流刑になります。ところが為朝、流刑地で大人しくするどころか大暴れし、伊豆諸島を征服してしまったからスゴイ。伝説によれば為朝の武威をおそれ疫病神たちが伊豆諸島から逃げ出し島のひとびとは病気ひとつしなかったとか。
そのため、江戸時代になると為朝は「疫病除けの神」として信仰されるようになり、多くの絵師たちがその姿を描き、人々はそれを家に貼ったり眺めたり祈ったりしたのです。
こちらはみんな大好き歌川国芳の描いた為朝と疫病神。
疱瘡(ほうそう)をもたらすといわれた“疱瘡神”である老人と子どもが「もう悪さはしません」と約束の手形を為朝に渡しているところ。後ろにひかえるダルマやミミズクは疱瘡から無事に回復するためのおまじないアイテムたち。
こちら、かの葛飾北斎が描いた為朝。強弓の使い手として知られた為朝の弓をひいてやろうと3匹の鬼たちが必死になっているところ。それを見守るかのような左にいる鬼がなんだかかわいらしい(モジモジ)。鬼もかなわないパワーファイター為朝、これはご利益ありそうです。
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魔除けの神といえば鍾馗さま
鍾馗(読み:しょうき)は中国で古くから信仰されている道教の神さま。日本でも江戸時代には魔除けのパワーを持つとされ、5月5日の端午の節句には鍾馗を描いた幟(のぼり)をあげたり、鍾馗人形を飾ったりしました。疫病除けとしても鍾馗は大人気だったのですが、特に疱瘡除けには絶大な効果があると信じられていました。
上の絵は国芳の鍾馗さま。めっちゃカッコイイ。鍾馗といえば、長い髭、眼力あふれる大きな目、巨躯、中国の官人ファッション、長い剣……これがトレードマークです。
上の絵も国芳の鍾馗さま。やっぱりカッコイイ。ゴン太の力強いアウトラインが鍾馗の力強さを強調します。首根っこをつかまれて「タスケテクレー」と言っていそうな鬼の表情はちょっとコミカルです。
上の絵は国芳の門人・歌川芳虎の鍾馗さま。ちょっと師匠のタッチに似ています。さきほどの鬼は首根っこをつかまれていましたが、今度は足首つかまれて逆さ吊り(涙)。鬼の悲鳴が聞こえてきそうです。
真っ赤な鍾馗は北斎の作品。なんというか迫力がスゴイ。正面を見据える目がスゴイ。これは「赤絵(あかえ)」と呼ばれる疱瘡除けの願いを込めて描かれた絵のひとつで、北斎は真っ赤な鍾馗を何点か描いています。
上の絵も北斎の鍾馗さまですが、スタンダードな鍾馗イメージとだいぶ違います。獅子にまたがるワイルド系鍾馗さまです。
ちょっと余談ですが、なぜ鍾馗さまが魔除けの神となったのか。
話は唐の玄宗皇帝がマラリアに罹患したときに遡ります。玄宗皇帝は、鍾馗と名乗る大きな男が小鬼を退治する夢を見ます。夢から覚めるとなんとすっかり病は完治。玄宗皇帝は夢に見た鍾馗を絵師に描かせ、神さまとしてあつく信仰したそうな。それが日本にも伝わり、鍾馗さまは日本でも魔除けの神となったのです。おしまい。
では、引き続き鍾馗さまギャラリー。
上の絵は幕末の鬼才・月岡芳年の鍾馗さま。まさに先ほど紹介した玄宗皇帝の夢のなかで小鬼を退治する鍾馗を描いたものです。鬼がめちゃくちゃビビっています。そりゃね、こんなね、迫力で迫られたらね……鍾馗、怖すぎる。
江戸琳派の鬼才・鈴木其一も鍾馗を描いています。剣をふりかざし全力疾走で鬼をおいかける個性的な鍾馗像。逃げ惑う鬼もいい味だしています。
“画鬼”河鍋暁斎の鍾馗さまもかなりの個性派。なんと鬼を蹴鞠の鞠のように空高く蹴り上げています。これは見ているだけで元気になりそうです。
この上の絵も暁斎の鍾馗さま。鬼を崖から吊り下げてお仕置き中なのでしょうか。鬼が「ひえ〜」ってなっていてカワイソウ。
こうして見るとどの鬼もどことなく愛嬌があり、鬼=悪という単純な構造以上の愛情を絵師たちの筆から感じます。
最後はこちらの作品で〆。
上の絵は北斎、86歳のときの肉筆画(複製)。15の疫病神たちが須佐之男命(スサノオノミコト)にひざまずき、「もう悪いことはいたしません」と約束の手形を押しています。この作品、幅2m76cm、縦1m26cmとものすごいビッグ。すみだ北斎美術館に複製があるのですが、迫力ハンパない。北斎が牛嶋神社に大絵馬として奉納したものだそうですが、これはもう拝むだけで病気にかからなそうです。
いつ収束するのかなかなか出口が見えない新型コロナ騒動。気が滅入ることも多々あると思いますが、天才画家たちによる厄除け絵を見てワルいものを追い払いましょう!
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