• 更新日:2019年3月24日
  • 公開日:2019年3月3日


馬琴とのゴールデンコンビで大活躍した「葛飾北斎期」(46〜50歳頃)


江戸時代後期、「読本(よみほん)」と呼ばれる伝奇小説が大人気となりましたが、「葛飾北斎」と名を改めた北斎は、この読本の挿絵で人気と知名度を確固たるものにしました。大胆な構図で描かれるダイナミックな世界は見る者の度肝を抜いたことでしょう。

そのほか北斎のユーモアセンスが爆発する戯画「鳥羽絵」や、妖艶さをたたえた美人画、リアルな筆致で描かれた生物画など多種多様な作品を生み出しました。

漫画的表現

『新編水滸画伝』(曲亭馬琴 作、葛飾北斎 画/1805年)
『新編水滸画伝』(曲亭馬琴 作、葛飾北斎 画/1805年)
伏魔殿が壊れ108つの悪星(のちの英雄たち)が世に放たれたシーンを北斎が描いた挿絵。ビカーッ!!!という効果音がつきそうなエフェクトはとても江戸時代のものとは思えない斬新さ。

枠を飛び出す

『椿説弓張月』(曲亭馬琴 作、葛飾北斎 画/1807-11年)
『椿説弓張月』(曲亭馬琴 作、葛飾北斎 画/1807-11年)
こちらも北斎と馬琴がタッグを組んだ大人気作の挿絵。弓の名手・源為朝(ためとも)の弓を引こうと踏ん張る姿は見るからに必死で、見ている方も思わず力が入ってしまいます。そして枠をぶち抜いて描かれた弓のダイナミックさにも注目です。

大人気絵師・葛飾北斎と大人気作家・曲亭馬琴とのゴールデンコンビは瞬く間に人気を集めたのですが、天才と天才、お互いに譲れないものが多くしょっちゅう喧嘩をしてたそう。

当時、読本の挿絵は作者が指定した下絵をもとに絵師が描く、というスタイルだったのですが、北斎は馬琴の指示を無視して背景に勝手に動物を描き入れたり、人物の位置を変えたりして度々馬琴をキレさせたらしい。

でも馬琴は知人に送った手紙のなかでは北斎を賞賛することもあったらしい。ツンデレですね。

生きるがごとき雲

『北越奇談』(橘崑崙 作、葛飾北斎 画/1812年)
『北越奇談』(橘崑崙 作、葛飾北斎 画/1812年)
越後の文人・橘崑崙(たちばなこんろん)による北越地方の怪談や奇談、博物学的記録などをしたためた随筆集の挿絵も北斎が手がけました。

見てください、この挿絵。もくもくと湧く黒雲の合間から龍が現れたのですが、雲のインパクトがとにかくすごい。モノクロながらど迫力です。

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北斎のペーパークラフト

『しん板くミあけとうろふゆやしんミセのづ』(葛飾北斎 画/1807〜12年)
『しん板くミあけとうろふゆやしんミセのづ』(葛飾北斎 画/1807〜12年)
こちらは絵を切り離して組み立てる「組上絵(くみあげえ)」というジャンル。今でいうペーパークラフトです。

『新・北斎展』では、組み立てるとこうなる、というのが巨大パネルとして展示してあり、唯一の撮影ポイントになっています。

葛飾北斎作の組上絵(『新・北斎展』より)

「組上絵」は「おもちゃ絵」という子ども向けのものですが、実際に組み上がるようにパーツの考えるのは相当難しかったそうで、絵師の技量が問われました。

子ども向けといえば北斎はこんなものも手がけています。

お菓子のパッケージにも手抜きはしない

『弁慶図』(葛飾北斎 画/1808〜13年)
『弁慶図』(葛飾北斎 画/1808〜13年)
怪力無双で知られる弁慶がほほ笑みを浮かべて「御菓子」の立て札を持っています。子ども向けパッケージだからか弁慶の表情がやさしい。背景の梅の花や画面いっぱいに描かれた鎧姿によって華やかな印象です。

この時期の北斎はこんなユーモアあふれる作品も多く描きました。

表情がマンガ

『鳥羽絵集』「お稽古」(葛飾北斎 画/1811〜13年)
『鳥羽絵集』「お稽古」(葛飾北斎 画/1811〜13年)

『鳥羽絵集』「身づくろい」(葛飾北斎 画/1811〜13年)
『鳥羽絵集』「身づくろい」(葛飾北斎 画/1811〜13年)
表情とか動きが完全にマンガ。髪を引っ張ったら顔のパーツまでグイーって引っ張られちゃうとか、とても200年以上前の表現とは思えません。これらは「鳥羽絵」と呼ばれる戯画(ぎが)で軽妙なタッチとユーモラスな表現で笑いを誘い、人気を博しました。

北斎の戯画はとてもおもしろいのでもう少し紹介しちゃいましょう。

なにこれ楽しそう

『風流おどけ百句』「いくぢなし」(葛飾北斎 画/1811頃)
『風流おどけ百句』「いくぢなし」(葛飾北斎 画/1811頃)
すり鉢でなにかを摺る女性のポーズがすごいし、それを見ている男性の笑顔がとてもかわいい。

きゃあ〜〜〜

『謎かけ戯画集』「下手の将棋」(葛飾北斎 画/1818〜31年)
『謎かけ戯画集』「下手の将棋」(葛飾北斎 画/1818〜31年)
将棋をしていたところに鳴り響いた雷鳴に大混乱する3人の男たち。もうぐちゃぐちゃ。雷に怯える表情が素晴らしいですね。これはタイトルに「謎かけ」とあるように「雷とかけまして下手の将棋ととく、そのこころは……」というやつです。

さて、「宗理期」に「宗理美人」と呼ばれる清純系美人を生み出した北斎ですが、「葛飾北斎期」になると一気に色気を増した妖艶な美女を描くようになります。

美しさに酔いしれる

『酔余美人図』(葛飾北斎 画/1807年頃)
『酔余美人図』(葛飾北斎 画/1807年頃)
こちらは北斎美人画の代表作のひとつ。

三味線箱にしな垂れかかる美しい芸妓は、床に転がる盃から察するにかなり酔っているようす。太い線で力づよく描かれた着物はどちらかといえば男性的な色彩ですが、抜けるように白い女性の顔や手の白さ、たおやかさとのコントラストによって非常に色っぽい雰囲気を漂わせています。

着物のラインが生み出す色気

『見立三番叟(さんばんそう)』(葛飾北斎 画/1803〜07年)
『見立三番叟(さんばんそう)』(葛飾北斎 画/1803〜07年)
狂言の『三番叟』の登場人物に見立た3人の美人たち。特に目を引くのが中央の花魁。淡い色合いながら迫力のある美しさをたたえています。

一方、動植物の表現力もますます冴えわたって行きます。

力強さと繊細さと

『竹に昼顔図』(葛飾北斎 画/1807〜13年)
『竹に昼顔図』(葛飾北斎 画/1807〜13年)
墨一色で一気呵成に描かれた竹の力強さ。それとは対照的に繊細かつ瑞々しい色彩で描かれた昼顔のやわらかさ。真逆ともいえる2つの植物が絡み合い、ひとつの世界をつくりあげています。植物が描かれているだけなのになんともいえない色気を感じる一枚です。

動き出しそうなタコ

『蛸図』(葛飾北斎 画/1811年頃)
『蛸図』(葛飾北斎 画/1811年頃)
シンプルに蛸だけが描かれた一枚。しかも、ものすごくリアルです。つぶらな瞳が印象的。とにかく蛸の質感の表現がすごい。

さて続いてはいよいよ『北斎漫画』が誕生します。

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