おれの画法を学べ! 『北斎漫画』を生み出した「戴斗(たいと)期」(51〜60歳頃)
数え年51になった北斎が使うようになったのが「戴斗」の画号。
読本挿絵などで大人気絵師となった北斎は人気の高まりとともに弟子も増え続け、この頃には弟子と孫弟子だけでおよそ200人もいたそう。さらに全国各地にも私淑者がおり、そうした人たちのために画法指南書ともいえる「絵手本」の作成に精力を傾けるようになります。
北斎はさまざまな「絵手本」を手がけましたが、なんといっても代表的なのは世界に名高い『北斎漫画』でしょう。
かのシーボルトによってヨーロッパに紹介されたことから「ホクサイスケッチ」として世界にその名を知られる『北斎漫画』は全15編からなる大作で、最終編が出版されたのは北斎死後の1878年(明治11年)のこと。
その内容はじつに多彩で、人物や動植物はもちろん、建物や風景、伝説の生き物や宗教など、まさに森羅万象のスケッチ集。では、いくつか紹介しましょう。
浮き輪でプカプカ
「浮腹巻」なる浮き輪のようなもので男性たちが楽しげにプカプカ浮かんでいます。息を止めて潜っている男の子も秀逸です。ページ全体に波模様がデザインされているのがとてもシャレています。
愉快な妖怪たち
こわーい妖怪も北斎の手にかかるとなんだか人間くさくて親近感がわきます。真ん中の三つ目入道はメガネを買おうとしているようで、ちゃんとメガネも三つ目仕様なところがほほえましい。
巨大なフキ
「出羽秋田の蕗(ふき)」というタイトルのこちらは、実際に秋田にある巨大な「アキタブキ」を描いたもの。高さ2m近くにも成長するというこのフキは傘としても使われていたそうで、北斎はその話を聞いてこれを描いたのでしょうか。
スポンサーリンク
伝説上の生き物
画像右は「白澤(はくたく)」という人語を解する神獣で、左は悪夢を食べてくれる獏(ばく)です。こうした実際には存在しない生き物のスケッチも『北斎漫画』にはたくさん登場します。
北斎が手がけた絵手本は『北斎漫画』以外にもたくさんあります。
「いろは」順にひける絵の便利辞典
「いろは」順に頭文字にちなんだカットが見開きにぎっしり詰まった絵の辞典。こちらは「と」のページ。仲よく語らう「友」もいれば、「鳶(とび)」も飛んでるし、「盗賊」とそれを「捕らえる」人もいる。かと思えば「トコロテン」を突く男性に、「土蔵」まであるというバラエティの豊かさ。
テーマはずばり一筆書き
紙から筆を離すことなく1本の線だけで描いた絵の収録集。(え?本当に一筆書きなの??)というものもたくさんあるのですがどうやって描いたんでしょうね。
北斎は弟子たちだけでなく職人のためのデザイン集も手がけています。
デザイナー北斎
これは櫛(くし)と煙管(きせる)のデザイン集で実物大に描かれており、職人が切り取って使えるようになっているそう。なんという便利さ!
ほかにこんな作品も。ちょっと怖いので閲覧注意かも。
北斎生首のなかで一番リアル
近年発見されたというこの扇絵は、企画展の目玉のひとつ。とにかく怖い。一瞬ギョッとします。
北斎の生首絵は何点かありますがダントツに怖い。西洋画法を強く意識しているそうで、リアリティがものすごいんです。ぜひ、生で見て欲しい作品です。
さぁいよいよ「グレートウェーブ」の登場です。
次ページ:世界的傑作を続々生み出した「為一(いいつ)期」(61〜74歳頃)