さて、お次は同年8月に行われた芝居興行に取材した役者絵をご紹介。「桐座」という芝居小屋で行われたもので、演目のタイトルは『神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)』。作者は、かの奇才・平賀源内で、「福内鬼外(ふくちきがい)」というペンネームで書きました。

南北朝時代を舞台にした時代もので、戦死した南朝の忠臣・新田義興(よしおき)の遺児や妻、それを守る家臣らの苦難の物語。人形浄瑠璃や歌舞伎として上演され大人気を博した作品です。

では、どうぞ。

初代中山富三郎の義興妻つくば御前(東洲斎写楽 画)
初代中山富三郎の義興妻つくば御前
夫である新田義興の憤死の一報に動揺する義興の正室(妻)。演じる中山富三郎は、なよなよとした仕草から「ぐにゃ富」というあだ名のあった女形。デビュー作28点のなかにも富三郎を描いた「大首絵」があるので探してみてね☆

二代目中村粂太郎(くめたろう)の由良兵庫之介妻みなと(東洲斎写楽 画)
二代目中村粂太郎(くめたろう)の由良兵庫之介妻みなと
重臣・由良兵庫之介の妻で、未亡人となった筑波御前を支える気丈な女性。敵方に寝返った夫に詰め寄るシーン。表情とポーズから怒りと苦悩を感じます。

八代目森田勘弥(かんや)の由良兵庫之介(東洲斎写楽 画)
八代目森田勘弥(かんや)の由良兵庫之介
妻の湊(みなと)に詰め寄られているのがこちらの男性。たしかに困っていそうです。ユニークな髪型、裃の肩部分、そして裾部分ーーそれぞれ横に張ったシルエットになっているので面白いですね。

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この由良兵庫之介は、敵方に寝返り旧主の遺児に手をかける、という極悪非道な振る舞いをするんですが、じつは敵を欺くための芝居。妻をはじめ味方や観客からも憎まれるが、最終的には「いい人だったんじゃん!」となる“おいしい”役です。

二代目市川高麗蔵(こまぞう)の南瀬(みなせ)六郎(東洲斎写楽 画)
二代目市川高麗蔵(こまぞう)の南瀬(みなせ)六郎
敵との徹底抗戦を主張する忠誠心あふれるアツい男。前のめりの姿勢にこの役の激情を感じます。最終的にお家のために自害する悲劇的な役です。「黄つぶし」の背景に黄色っぽい着物なので、全体的に画面が黄色。まるで十字架のようにクロスした刀の黒い鞘が画面を引き締めます。

二世市川高麗蔵の南瀬六郎(東洲斎写楽 画)
二世市川高麗蔵の南瀬六郎
先ほども登場した忠誠心あふれるアツい男、南瀬六郎が主君の遺児を守りながら旅しているところ、土地の悪者に襲われたシーン。六部(ろくぶ)に変装した六郎が仕込杖を抜いた瞬間を描いています。刀に添えた手がカッコイイ!

中島勘蔵の馬子(まご)寝言の長蔵(東洲斎写楽 画)
中島勘蔵の馬子(まご)寝言の長蔵
六郎と対峙しているのが、こちらの長蔵。出刃包丁を逆手に持ったポージングの独特さがすごい。並べてみるとカッコよさが増すので、並べてみましょう。

南瀬六郎と長蔵の比較(東洲斎写楽 画)

睨み合う顔がグッと近づいて、飛び散る火花まで見えるようです。

ちょっと余談。

「デビュー作と第2期の作品ではここが違う」というのは前述しましたが、もうひとつ追加で。それは「続きものの登場」です。

デビュー作では「大首絵」という役者の上半身をクローズアップした肖像画のみを手がけた写楽。役者の顔を中心に大胆に描くことで、役者の内面にまで迫るような異色の作品を生み出した写楽ですが、一般ウケはしませんでした……。そのため、第2期では大きく方向転換し、役者の全体像を描くようになり、さらに2〜4枚続きのものも手がけるようになりました。芝居のワンシーンを切り取り、客観的に描くようなスタイルに変更したのです。写楽(とプロデューサー蔦屋)の試行錯誤が伺えます。

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