デビュー作と第2期の作品はここが違う!
ちょっと余談。
お気きの方もいるかもしれませんが、これまで紹介した第2期の作品と以前ご紹介した第1期のデビュー作を比較すると大きな違いが2つあります。さて、なんだ?
答えはーー
人物の描きかたと作品のサイズ。
まず、人物の描きかたについて。
これは写楽のデビュー作のなかの1点です。色気漂う悪役です。
この作品のようにモデルの上半身をクローズアップして描いたものを「大首絵(おおくびえ)」というのですが、第1期のデビュー作28点はすべてこうした「大首絵」のスタイルをとっています。
写楽ならではのデフォルメや斬新な構図がいかんなく発揮されており、傑作ぞろいです。
対して今回ご紹介する第2期以降になると「大首絵」はめっきり数を減らします。第2期に至っては1枚もありません。「大首絵」の代わりにメインとなるのが役者の全身を描いた作品です。絵画素人の個人的意見としては、正直インパクトや面白味がだいぶ薄れてしまったように感じる……(ぼそり)。
一説に、「大首絵」から「全身像」への大転換は、プロデューサーである版元の蔦屋重三郎のアイデアなんじゃないかとも。
次に作品のサイズ。
第1期の作品はすべて縦およそ39センチ、横およそ26センチの「大判(おおばん)」と呼ばれるビッグサイズ。
第2期以降もこうした「大判」サイズの浮世絵を写楽は描いているのですが、「細版(ほそばん)」と呼ばれる縦33センチ、横およそ15センチの細長い判型の浮世絵も数多く手がけるようになります。かなりサイズダウン。
通常、新人絵師というのはサイズの小さな作品からスタートし、人気が出て売れるようになれば大きなサイズの作品を手がけるようになります。
ところが写楽は逆。
大きな作品でデビューしたのにサイズダウンしていく……。これも写楽の大きな謎のひとつです。
じゃあ、デビュー作品以外、写楽の作品には見るべきものがないのかといったらそんなことは全然ありません。「やはり写楽は只者じゃない!」とうなるような作品もたくさんありますので、どうぞご期待くださいませ。
では、引き続き第2期の作品をどうぞ。
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立ち姿の描くラインに注目!
さて、お次は先ほどご紹介した『二本松陸奥生長(にほんまつみちのくそだち)』という芝居狂言と同時期の1794年(寛政6年7月)に上演されたお芝居の登場人物たちを描いたものです。興行が行われたのは「都座」という芝居小屋で、上演されたのは『傾城三本傘(けいせいさんぼんがさ)』という、敵討ちストーリーに美男2人と美しい遊女の恋の駆け引きをからませた物語。それにしても、江戸時代の人は敵討ちと恋愛ものが大好きですねぇ。
デビュー作をご紹介したときにも述べましたが、写楽のコンビものは徹底した対照がポイント。第2期の作品でもそのこだわりは踏襲されています。
こちらの作品もその好例。右のヌボーっと立っているのが悪役・浮世又平で、左のポッチャリ男子が善役の土佐又平。立ち姿と中腰(このポーズがなんか独特)、瘦せ型と太っちょ、真一文字に結んだ口と開いた口、などなどあちこちに対照描写が盛り込間れています。
同作品に取材し写楽が描いた役者絵のなかには、こちらの絵にそっくりのものがあります。こちら。
えー、なんというか先ほどのコンビ絵を分割しただけなんじゃ……(小声)。
多少、ポーズや着物などに違いがありますが、表情なんかはまるで一緒に見えます。構図的にも使い回し疑惑がぬぐいきれません。
ヒロインの遊女かつらぎと彼女に想いを寄せるイケメンのひとり。ちなみに名護屋山三のモデルとなったのが、名古屋山三郎という安土桃山時代に実在した武将。ものすごいイケメンだったそうで、“歌舞伎の祖”といわれる出雲阿国と夫婦だったとも。
美しい立ち姿の山三と彼にしなだれかかるように座るかつらぎ。大人な雰囲気が漂っています。
こちらも遊女かつらぎ。三代目瀬川菊之丞は江戸時代を代表する名女形として絶大な人気を誇りましたが、写楽は名女形のすばらしく女性らしい演技を的確に描いています。
ちなみにデビュー作28点のなかにも三代目瀬川菊之丞を描いたものがあるので、ちょっと比較。
やっぱりデビュー作の方が圧倒的に表情も豊かだし魅力的ですが、全身像は全身像でいいもんです。
先ほども登場したイケメン名護屋山三。赤をさし色にした黒い着物姿に色気を感じます。黄色い背景によく映えます。ちなみにこの作品のように黄一色で塗りつぶす背景を浮世絵用語では「黄つぶし」といいます。写楽の第2期作品には「黄つぶし」が多用されています。ポージングもユニークですねぇ。