山三を演じた三代目沢村宗十郎を写楽はデビュー作でも描いています。こちら。
うん、またもや顔がほぼ一緒ですね。
えー、では次。
美貌の遊女かつらぎを名護屋山三と取り合うもうひとりのイケメンがこの不破伴左衛門さん。こちらの役も名護屋山三と同じく実在の人物がモデルとなっています。不破万作(伴作とも)という戦国時代の超絶美少年です。
それにしても派手ですね〜。雲にカミナリ模様はこの役にお決まりファッションらしい。着物の柄が複雑になるのも第2期以降の特徴です。
悪役らしく刀に手をかけた姿もカッコイイ。
腕をまくり睨みつけるように立ちはだかるのは、悪役の坊さん・子育て観音坊。いかにも気性が荒そうです。その足元で刀を盾のようにし身構えるのは先ほど登場した悪いイケメンの不破伴左衛門。やっぱり派手。背景の右上を大胆に空白にし、大きく弧を描くように配置された2人の姿に写楽の構図センスを感じます。
こちらも悪僧・観音坊を描いたもの。悪役の大ベテランとして人気を博した三代目坂田半五郎の堂々たる悪役ぶり。黒い袈裟(けさ)のうねりが独特。
上の悪い坊さんが襲おうとしているのが、善若丸という若殿。その若さまをかばう遊女・遠山の極端なまでにカーブした姿態がエロティック。人物を描くときに「孤」つまりカーブを構図に多用するのが、第2期の写楽作品の特徴です。
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悪僧・観音坊と一緒に遊女・遠山を襲おうとしているこれまた悪役の金貸し。後ろ手に鍬(くわ)を持っています。これは悪い。いかにも歌舞伎!といった感じの見得(みえ)を切っている瞬間です。
そっちが鍬ならこっちは鍬(すき)だ!とばかりに鋤を持って門兵衛らに立ち向かう善人役。なんというか緊迫した場面とは思えないのんきな表情です。
こちらも味方役。着物の色が素敵です。深緑色がアクセントになっていてオシャレです。顔、腰の白手ぬぐい、足と白3ポイントをつなぐと見事なカーブ。ここでも写楽は弧を描く構図を使っています。
日の丸に鶴が描かれたおめでたそうな扇子を持ったこちらの男性は、不破伴左衛門に殺される不憫な役です。ちなみに不破の恋敵、名護屋山三のお父さん。演者である山科四郎十郎は芸達者でいろんな役がこなせる役者だったらしい。たしかに漂う名バイプレーヤー感。
上の名護屋三左衛門を殺す不破伴左衛門の妻。着物の裾のチェック模様は「市松模様」として人気を博した模様で、佐野川市松の代名詞。気遣わしげに見つめる視線の先にいるのは……。
不破伴左衛門の妻が見つめていたのがこちらの若者、2人の息子です。いかにも頼りなげ。
余談ですが、この若者を演じた六代目市川団十郎は、「名人」といわれた名優・五代目団十郎の子で5歳で初舞台を踏み、花のある美貌もあって将来を期待されたホープでした。写楽が描いたのは17歳の姿。しかし、風邪をこじらせ22歳の若さで世を去りました……。
以上、1794年(寛政6年)7月興行『二本松陸奥生長(にほんまつみちのくそだち)』『桂川月思出(かつらがわつきのおもいで)』より16点の役者絵でした。