のんびりとは程遠い食事中の将軍さま、大奥の食事は?
さて、将軍はどのようなかんじで食事していたのでしょうか。広いお座敷にひとりで食事……という時点でかなりさみしいものがありますが、「逆にのんびりできていいかも」と思ったら大間違い。これがぜんぜんのんびりできない。食事中は“されること”がいっぱいあったのです。
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まず、食事しながら顔と頭をカミソリで剃られます。万一、手元が狂って将軍の顔を傷つけようものなら切腹モノですから、将軍もなるべく動かないよう無表情に黙々と食べなくてはいけません。続いて髪も結いました。これももちろん食事中。同時進行で、内科の医者2人による検診が3回も行われました。脈をとったり、肌着の上から触診したり……。こんなワサワサした状況で食事をするのですから、ホントたいへんですねぇ。
さらに、好き嫌いは厳禁。食べ残したりすると料理人の責任問題に発展しかねず、同じ量を毎日きちんと食べなければなかなかったとか。気苦労の多い食事です。
一方、大奥は将軍に比べると比較的自由だったようです。
こちらは大奥での朝食のようす。画面右にいる女性が将軍の正室である御台所(みだいどころ)です。朝食の時間は将軍と同じく朝の8時。気になる食事の内容は
- 〈一の膳〉
- ごはん、汁物、豆腐にだし汁をかけたものなど煮物、キスの焼き物など、口取(くちとり)として蒲鉾、胡桃の寄せ物、昆布、鯛の切り身などから好きなものを3種ほど
- 〈二の膳〉
- 豆腐や卵などの汁物、鯛の焼き物などの魚、香の物
そのほか、「御外(おほか)の物」といって好きなものをリクエストすることもできたそうですから、将軍に比べると楽しそうな食事です。食事のお世話は御台所のお世話係である御中臈(おちゅうろう)が担当し、魚などは身をむしってくれました。
御台所も食事に関する厳しい作法がたくさんありました。食事作法の専門書『小笠原諸礼大全』に書かれたご飯と汁の食べ方を見てみると……
食事の始めにはまず右手で飯椀のふたを取り、左手に移して膳の左に置く。汁椀のふたも同様にする。さて、箸を取り上げ持ち、その手で飯椀を取って左手に移し、二箸ご飯を食べたら下に置いて、右手に汁椀を取って左へ移し汁を吸ったら右手に取り下に置く――
まさに一挙手一投足。細かすぎるくらい細かく作法が決められています。ちなみに、ここまでして御台所が口にするのはひと箸、二箸だけですぐに「おかわり」となり、おかわりは3回まででした。
こう見ると、江戸時代を生きた庶民の食事は、おもに山盛りご飯とお味噌汁だけでしたが、蕎麦や寿司、てんぷらなどファストフードや外食産業が発達していた分、お金の余裕があれば、もしかしたら将軍よりも楽しい食生活を送れていたかもしれませんね。