昔の人は虫歯になったらどうしてた?江戸時代の虫歯治療法が壮絶だった

  • 更新日:2022年1月3日
  • 公開日:2016年8月9日

現代では虫歯の治療、予防対策などの向上により虫歯は減少傾向にあるそうです。それでも、放置しておくと最悪の事態を招くこともあるという恐ろしい虫歯。今回は江戸時代の虫歯治療などをまとめてみました。


江戸時代の虫歯診察(右)
江戸時代の虫歯診察(右)

虫歯になった歯は抜くしかなかった!?


現在、虫歯になったとなれば悪い部分を削って詰め物をしたり、かぶせ物をしたりします。進行が進んだ虫歯でも抜歯しないで治す治療法も主流になりつつありますよね。

しかし、江戸時代には当然ながらそんな治療法はまだありません。削る機器もありません。では、どうしたのかといいますと――


『きたいな名医難病治療』部分(歌川国芳 画)
『きたいな名医難病治療』部分(歌川国芳 画)
虫歯はとにかく抜く

が基本だったようです。

しかも、

麻酔なしでの抜歯

です。想像するだけで痛すぎる。

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お酒を飲んで感覚を鈍らせることもあったようですが、それほど効果があったとは思えませんから、想像を絶する痛さだったでしょうね。

ちなみに、江戸時代にも「口中医」と呼ばれる今の歯医者さんのような人がいたのですが、それとは別に「歯抜師」という抜歯の専門家もいました。

ただし、医師免許があったわけでもなく、医療修行をしたこともない……言ってしまえば、歯を抜くことに長けた素人です。

さらに、大道芸人が抜歯をすることもありました。

それが香具師(やし)と呼ばれる人で、街頭や見世物などで芸を披露しながら品物を売る商売人です。フーテンの寅さんも香具師ですね。

江戸時代、抜歯することもあった大道芸人
『近世職人絵尽』より
こちらの絵は松井源水という代々浅草で活躍した香具師。

訳がわからないと思うのですが、曲独楽(きょくごま)や居合抜きなどの芸を披露しながら歯磨き粉を売ったり、希望者がいれば、熟練の早業でエイ!とその人の歯を抜いたそうです。

余談ですが、商品としての歯磨き粉が登場したのも江戸時代。精製した砂や塩が歯磨き粉の基本成分で、ハッカなどの香辛料をブレンドしたものもあったそうです。

なお、お値段は1袋6~8文(約120~160円)で、1袋で1~2カ月使えたとか。

房楊枝(ふさようじ)という歯ブラシのようなもので女性が歯を磨いている(『東海道五十三対 石部』歌川国芳 画)
房楊枝(ふさようじ)という歯ブラシのようなもので女性が歯を磨いている(『東海道五十三対 石部』歌川国芳 画)


虫歯を抜く前に頼ったのは歯医者さんではなく神様


虫歯の痛みは耐え難いもの。

前述したように江戸時代にも口中医という歯医者さんがいましたが、治療を受けられるのは大名や裕福な商人などの一部セレブだけ。まぁ、治療といっても当時はまだ根本的治療法がないので痛みを軽くするという程度ではありましたが。

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では、歯の痛みに悩む庶民はどうしていたのでしょうか?

歯いたみ・歯みがき(小林清親 画)
明治時代の絵師・小林清親の筆による歯痛に苦しむ女性(右側)。ゆがんだ表情から相当な痛みと思われる
その方法をざっと紹介すると、次の通り。

  • 漢方薬など売薬を服薬する。
  • 民間療法の生薬を飲む。
  • 病封じのおまじないをする。
  • 痛いところに竹筒をあてて(もしくは梨の枝をくわえ)、その先端に灸をすえる。
  • 大根の汁を痛くないほうの耳へ注ぐ(え?)。もしくは患部に塗る。
  • もぐさの煙を鼻から吸って口から出す(え!?)

などなど。

現代人からみると「治療」とは程遠いものばかりですが、当時の人は真面目も真面目、大真面目に虫歯治療として行っていました。

また、神頼みも歯痛を和らげるためのポピュラーな手段でした。神社仏閣へお参りし、願掛けをしたり、おはらいをしてもらったり、虫歯封じのお札やお守りを買ったりして、人々は歯の痛みから救われようとしたのです。

虫歯に苦しむ人が奉納した絵馬(江戸時代)

これは虫歯に苦しむ人が奉納した絵馬。女の子が口にくわえているのは錨(いかり)です。錨が船を止めるように、歯が抜けないようにという願いが込められているんだとか。

歯に関係が深い神社仏閣は各地にありますが、東京都港区東新橋にある日比谷神社もそのひとつ。もともと現在の日比谷公園内にあり、江戸時代には海が近く、近隣で鯖がよく獲れたことから通称「鯖神社」とも。

江戸時代、虫歯に悩む人がこの神社によく訪れたそうなんですが、おもしろいのが虫歯治癒の願掛け方法。ある食材を断って神頼みするのですが、その食材というのがこれ。

『魚づくし』「さば かに あさがお」(歌川広重 画)
『魚づくし』「さば かに あさがお」(歌川広重 画)
鯖(サバ)です。

「鯖神社」だけに、鯖を断ってこの神社に願掛けすると虫歯が治るんだとか。幸運にも願いがかなった場合は、鯖を奉納する習わしがあったといわれます。じつにユニーク。

あの有名人たちも虫歯に悩まされていた


虫歯の痛みに貴賤の区別はなく、有名・無名も問いません。江戸時代の偉人・有名人のなかにも虫歯に悩まされた人がたくさんいました。

たとえば、

松尾芭蕉の肖像画

『奥のほそ道』で知られる俳聖・松尾芭蕉です。「古池や蛙(かわず)飛び込む水の音」など超有名な句をたくさん残しています。

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そんな芭蕉が加齢とともに弱る歯を詠んだ句がこちら。

衰ひや 歯に喰ひあてし 海苔の砂
~松尾芭蕉~

当時は板海苔を作る時に砂が混じることがあったのでしょう。そんな海苔に混じった砂も歯が丈夫なときにはぜんぜん気にならなかった。しかし、老い(といっても48歳の時の句ですが)とともに弱る歯にはこたえたようです。

そんな芭蕉の高弟にしてパトロンでもあった杉山杉風(さんぷう)も歯を患っていたようで、こんな一句。

がつくりと ぬけそむる歯や 秋の風
~杉山杉風~

44歳の時の句なのですが、がっくりと歯が抜け始めたと嘆いています。「がっくり」というところに悲しみを感じます。

ほかにも歯のトラブルに悩まされた人物が、この人。

小林一茶の肖像画

「やせ蛙 負けるな一茶 これにあり」などの句でおなじみ江戸時代後期の俳人・小林一茶

一茶もかなり歯が悪く歯周病を患っていたといわれ、49歳の時には歯がぜんぶ抜けてしまったとか。

そこで一句。

かくれ家や 歯のない口で 福は内
~小林一茶~

なんだが自虐的なにおいがします。

一茶が世を去ったのは64歳。とすると、15年間も歯のない生活をしていたんでしょうか。それとも入れ歯をしていたんでしょうか。いずれにせよ、歯周病って今も昔も恐ろしいです。

ほかにもこの方。

曲亭馬琴の肖像画

江戸時代文学を代表する大ベストセラー『南総里見八犬伝』で知られる作家・曲亭馬琴

晩年、目を患っていたことはよく知られていますが、歯も悪かったようです。

馬琴は謹厳実直、真面目というイメージとはうらはらに若い頃から甘いものが大好きだったそうで、結果、虫歯がいっぱい……。50代で総入れ歯になったそうで、日記にも「今日は入れ歯を修理する」などと書き残しています。61歳の時にはぜんぶの歯が抜けてしまったんだとか。

余談ですが、馬琴も愛用していた入れ歯について。江戸時代の入れ歯は同時代の諸外国と比較しても非常によくできていたそうで、実用性もバツグンだったとか。

発見された江戸時代の入れ歯のなかには歯石がついているものもあるそう。それほどよく使っていたということです。日本は入れ歯先進国だったんですね。

江戸時代の入れ歯

これは江戸時代のものと考えられている入れ歯なのですが、歯茎の部分はなんと木でできています。ちなみに歯は蝋石です。

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こうした入れ歯をつくっていたのは歯医者ではなく、「口中入れ歯師」という入れ歯専門の職人。歯について医学的知識はなく、入れ歯づくりの技術は弟子が親方について習得した、というのがユニーク。

ただし、隻眼の剣豪・柳生十兵衛三厳の弟で将軍の剣術指南役を務めた柳生宗冬(むねふゆ)の入れ歯をつくった小野玄入(げんにゅう)という人は、入れ歯師であり歯の治療をする口中医でもあり抜歯も行い、はてには歯磨き粉も売っているという“歯のデパート”状態。そんな歯のスペシャリストもいたのです。

歯の達人・小野玄入の店を宣伝するチラシ(引き札)
小野玄入の店を宣伝するチラシ(引き札)
さて、話を歯に悩まされた有名人に戻して。

徳川幕府の歴代将軍のなかにも虫歯に苦しんだ人物がいました。それが幕末の動乱のなか若くして他界した14代将軍・徳川家茂(いえもち)です。

家茂は大の甘党だったことがたたり、虫歯だらけ。遺骨調査の結果、残っていた31本の歯のうちなんと30本が虫歯だったとか。ほぼぜんぶ!

家茂は20歳という若さで世を去ったのですが、虫歯が家茂の死因に少し影響してるのでは?ともいわれます。

徳川家茂の肖像画
羊羹や金平糖、カステラなどお菓子が大好きだったという家茂

さて、歯に悩まされた有名人がたくさんいた一方、80歳を過ぎてなお抜けた歯は1本もない、と豪語したのが、江戸時代の大ベストセラー健康書『養生訓(ようじょうくん)』の著者で学者の貝原益軒(かいばらえきけん)です。

貝原益軒の肖像画

益軒によりますと歯を健康に保つ秘訣は「毎朝、塩で歯と歯ぐきを磨き、お湯で2~30回 口のなかをしっかりすすぐ」ことなんだそう。これは現代のデンタルケアに通じるものがありますね。しかも実際に老いても歯が健康、現役バリバリの作者が唱える秘訣ですから説得力が違います。

江戸時代の人も虫歯に悩んでいたのかと思うと親近感を抱きますが、麻酔なしで抜歯していたというのには同情を禁じえません。

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