職人技の結晶、ゼンマイ式和時計
錘(おもり)などに代わってゼンマイを動力に利用したゼンマイ式の和時計が発明されると、和時計はさらにユニークに発展していきました。時計職人の技とアイデアの結晶ともいえるユニークな工夫に満ちた小型和時計をご紹介しましょう。
印籠時計(いんろうどけい)
江戸時代後期につくられたもので、「この紋所が目に入らぬか」でご存知、黄門様のシンボルとして有名な印籠に似せた時計です。
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ちなみに印籠とは薬を入れるための携帯ケースです。
印籠型時計ケースは総べっ甲製で全面には蒔絵が施され、蓋のなかには日時計とさらに方角を知るための磁石まで仕込まれているという超豪華仕様。
本物の印籠と同じくちゃんと根付までついているところに職人のこだわりが感じられます。
ちなみにこの時計は幕末の水戸藩主・徳川斉昭公のものと考えられています。(セイコー時計資料館所蔵)
枕時計
江戸時代後期につくられたゼンマイ式の小型置時計。
回転する文字盤は朱塗りでさらに金唐草の蒔絵まで!そうとうなハイクラス層の持ち物だったのでしょう。(セイコー時計資料館所蔵)
卦算時計(けいさんどけい)
「卦算」とは文鎮のことで、この卓上時計は文鎮としても使用できる一石二鳥の優れもの! 幕府お抱えの時計師・大野弥三郎規行の作品。
最後に、東芝の創業者として知られる幕末の天才発明家、「からくり儀右衛門(ぎえもん)」こと田中久重(ひさしげ)が製作した“和時計の最高峰”とも称される「万年時計」をご紹介。
万年時計、正式名称は「万年自鳴鐘(じめいしょう)」。製作年は1851年(嘉永4)。
ゼンマイを1度巻けば1年近くも動き続けるという機械式時計としては驚異的な持続時間を実現した傑作。
本体の上部にあるドーム状の部分は、太陽と月の運行が模型でわかる天球儀になっています。
その下は6面になっており、それぞれ、和時計、二十四節気の記入盤、七曜と時打ち数の表示、十干と十二支による日付表示、月齢の表示、洋時計とフル装備。多機能にもほどがあります。
これを実現させるためにつかわれたパーツは1000点以上ともいわれていますが、そのほとんどが田中久重の手作りで、なかには既存の歯車にない田中久重考案のオリジナル歯車もありました。
現代の技術者も驚嘆するほど高度な技術が詰め込まれたこの万年時計ですが、彫金や螺鈿など装飾の美しさも一級で芸術品としても非常に優れた作品で、まさに職人技の結晶といえます。
明治時代になると日本でも「不定時法」から「定時法」へ転換し、和時計もその役割を終えました。
今ではスマホや腕時計をはじめ時計はどこにでもあり、知りたい時に時間を知ることができます。しかし、その「時間」そのものがほんの270年ほど前まではぜんぜん違う感覚だったというのはなんだか不思議ですね。