その6 足洗邸(あしあらいやしき)
恐怖レベル★★★★★
本所三笠町(現・東京都墨田区亀沢)にあった味野岌之助という旗本の屋敷でのこと。毎夜、深夜になると生臭い風が吹いてきてミシミシと家を揺らすような大きな音がしたかと思うと、天井をやぶって血にまみれた毛むくじゃらの巨大な足がヌッと現れた。そして「足を洗え」という恐ろしい声が……。いわれた通りに足を洗ってやると足は満足したように消えるが、洗わないと足が暴れるのか家が大揺れに揺れた。こんなことが毎晩続いたため、たまりかねた味野は同僚に相談する。この怪事に興味を持った同僚は味野と屋敷を交換することに。しかし、同僚が移り住んでからは不思議なことに足が現れることはなくなったというーー
血まみれで毛むくじゃらの巨大足は非常に怖いのですが、それよりもとにかく迷惑。寝不足になります。「本所七不思議」のなかでもいろんな意味で一番怖いと思います。
ちなみにこの怪事の正体もタヌキなんじゃないかという噂が。江戸の怪異はだいたいタヌキ。
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その7 片葉の芦(あし)
恐怖レベル★☆☆☆☆
本所にお駒さんという美しい女性がいた。彼女に想いを寄せる留蔵というならず者、お駒さんが一向になびかないことに業を煮やし、ついにお駒さんを襲い、片手片足を切断し殺害したうえ、その死体を堀に投げ捨てる。以後、この殺人事件のあった駒止橋付近に生える芦は、奇妙にも片側しか葉をつけなくなったというーー
事件はヒドいもんだし、葉が片側にしかつかなくなったのも怨念がなせることと想像すると恐ろしい。でも、現象としては「ちょっと変わった植物が生えている」というだけで、第三者に被害はないわけですからそんなに怖くない。まぁ、江戸時代の怪談は現代的な“怖い”という感覚だけでくくれるものでもないので、これもれっきとした怪談です。
さて、以上で本所にまつわる不思議な話は7つ出揃ったのですが、「本所七不思議」にはまだほかの不思議話も伝わっています。七不思議なのに7つ以上もあるーーこれが一番の不思議!
番外編1 津軽の太鼓
本所にあった津軽越中守の屋敷にある火の見櫓には奇妙なことがあった。それは、通常ならば火の見櫓にあるはずの火災を知らせる際に打ち鳴らす板木の代わりに、太鼓がぶら下がっていたこと。火災の際にもこの太鼓が鳴らされた。しかし、いったいなぜ太鼓なのかーーその理由は誰も知らないーー
おしまい。
え?
いや、不思議。あきらかに不思議だけど決定的にインパクト不足。なので「本所七不思議」からリストラされがちな奇談です。
番外編2 落ち葉なき椎(しい)
本所にあった新田藩松浦家の屋敷にはそれは立派な椎の大木があった。ところが不思議なことにこの椎の木は1枚も葉を落とすことがなかった。そのため周囲の人々は大いに君悪がったというーー
おしまい。
「津軽の太鼓」と同じ感想ですので以下省略。リストラやむなしって感じです。
怖い話も怖くない話もありますが、それも七不思議のうち。とにかく江戸のあちこちに不思議話は転がっていました。夜も明るい大都会・東京では怪異も減ってしまいましたが、大都市とはいえ江戸の町では狐狸妖怪の類が跋扈し、そこかしこに不思議があったのです。
江戸時代の幽霊画特集もあわせてどうぞ。