今も語り継がれる「日本三大怪談」とは?


「日本三大◯◯」というのはいろんなジャンルに当てはまるベスト3の呼称ですが、「日本三大怪談」なんていうものもあります。

その筆頭といえばやっぱりこれ。




お岩さん(葛飾北斎の画)
どクズな夫の奸計により醜い容貌となり、恐ろしい怨霊となってしまったお岩さん(『百物語』「お岩さん」葛飾北斎 画)
ご存知、『四谷怪談』

『四谷怪談』といえば、江戸時代後期に活躍し斬新な演出で大人気を博した天才的戯作者・鶴屋南北の歌舞伎作品『東海道四谷怪談』が有名です。赤穂義士47人による仇討ち物語『仮名手本忠臣蔵』と表裏一体をなす作品として南北が作り上げました。ものすごく大雑把にあらすじを説明すると「悪逆非道な夫・伊右衛門の毒により醜い姿に成り果てた妻のお岩が死して怨霊となり、自分を裏切った伊右衛門らに復讐を果たす」という因果応報の物語。これにより、お岩さんは恐ろしい怨霊の代名詞的存在となり、その後の怨霊イメージに大いに影響を与えました。

『東海道四谷怪談』には元ネタは実話とも都市伝説ともいわれるこんなお話。舞台となった場所は江戸は四谷左門町(現・豊島区雑司が谷)、時代は元禄の頃という。

お先手鉄砲同心・田宮又左衛門にはひとり娘のお岩がいたが、疱瘡の後遺症で顔は崩れ、性格にも問題があったため嫁のもらい手もなかった。ところが口の巧い仲人の手管により伊右衛門という浪人者を婿に迎えることに。しかしほどなく伊右衛門は上司の愛人と浮気。愛人と手を切りたかった上司と伊右衛門は手を組み、お岩を田宮家から追い出す。夫の裏切りを知ったお岩は半狂乱となり失踪するが、その後、田宮家には次々と不幸な出来事が起こり、やがて家は断絶したという……

鶴屋南北は『東海道四谷怪談』を生み出すにあたり、こうした都市伝説をいくつか巧みに融合させ、怪談に真実味を持たせ、リアルな恐怖を観客に与えることに成功しました。

また、南北が作中に散りばめた印象的なシーンの恐ろしさと美しさは、後世に作られた小説や映画などさまざまなジャンルの『四谷怪談』作品にも大いに影響を与えました。例えば、伊右衛門の毒におかされたお岩が櫛で髪をとくと、髪がごっそり抜け落ちる「髪梳(かみす)き」と呼ばれるシーンや、伊右衛門に殺害されたお岩と小仏小平の死体が裏表に打ち付けられた戸板が登場する「戸板返し」のシーンなどなど。

四ツ谷怪談の「戸板返し」のシーンを再現した浮世絵。裏返すとお岩が現れる。その1(『四ツ谷怪談 戸板返之図』豊原国周 画)
四ツ谷怪談の「戸板返し」のシーンを再現した浮世絵。裏返すとお岩が現れる。その1(『四ツ谷怪談 戸板返之図』豊原国周 画)
「戸板返し」のシーンは浮世絵でも裏返るとお岩が現れるような演出付きで出版されました。歌舞伎の舞台では戸板の裏表でお岩と小平それぞれの衣装がセットされ、ひとりの役者が早替えで2役を演じたんだそう(『四ツ谷怪談 戸板返之図』豊原国周 画)
恐ろしき怨霊というイメージのお岩さんですが、モデルとなった実在の女性は貞淑で夫婦仲もよかったともいわれています。

余談ですが、京極夏彦さんの小説『嗤う伊右衛門』は『四谷怪談』を京極流に大胆アレンジした傑作ですのでオススメです。怖いだけでなく美しく悲しいんです、これが。

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さて、次。

「日本三大怪談」の2つ目はやはりこれでしょう。




『百物語』「さらやしき」 (葛飾北斎 画)
お菊幽霊、皿、井戸という『皿屋敷』に欠かせないモチーフを北斎流にアレンジした傑作。まるで蛇体のように並んだ皿と絡みつく黒髪が妖艶。まさに天才の発想(『百物語』「さらやしき」葛飾北斎 画)
『番町皿屋敷』

こちらもご存知の方は多いはず。非業の死を遂げ幽霊となったお菊さんが、夜な夜な井戸から出てきて皿を数えては「1枚足りない……」と嘆き悲しむというお話です。

怪談話として有名な『番町皿屋敷』ですが、日本全国に似たような話が点在しており、お菊の墓とされるものも各地にあります。たとえば『番町皿屋敷』は江戸時代の江戸は番町という場所を舞台にした怪談ですが、戦国時代の播州(現・兵庫県)を舞台にした『播州皿屋敷』というのもあります。「『皿屋敷』もの」は江戸時代だけでなく、明治大正昭和と時代を超えて歌舞伎や浄瑠璃、講談、戯曲などさまざまな形で発表され続けました。悲しき幽霊・お菊さんの物語には、日本人の琴線に触れるなにかがあるのでしょうねぇ。

最後の浮世絵師が描いたお菊さん(『新形三十六怪撰』「皿やしき於菊乃霊」 月岡芳年 画)
幕末の鬼才・月岡芳年の描くお菊さんは幽霊だからこその浮世離れした美しさ。美人に描かれることの多いお菊さんですが、これはトップクラス(『新形三十六怪撰』「皿やしき於菊乃霊」)
これで最後。

「日本三大怪談」のラストはこちら。




『牡丹灯籠』の幽霊・お露さん(『新形三十六怪撰』「ほたむとうろう」 月岡芳年 画)
『牡丹灯籠』に登場する幽霊のお露さん。芳年の手にかかるとやっぱり美しい。牡丹灯籠を持つ下女・お米を先導に愛しい人の元へ通うワンシーン(『新形三十六怪撰』「ほたむとうろう」月岡芳年 画)
『牡丹灯籠(ぼたんどうろう)』

『四谷怪談』『皿屋敷』に比べるとちょっとマイナーかもしれません。『牡丹灯籠』とはどんな怪談なのかというとこんなお話。

旗本の娘・お露は萩原新三郎という浪人に一目惚れした挙句、恋い焦がれて焦がれ死にしてしまう。お露の下女・お米も、お露のあとを追い世を去る。死して愛しい新三郎を忘れられないお露はお米を引き連れ、下駄の音をカランコロンと鳴らしながら、毎夜、新三郎の元へ通う。お露を幽霊とは知らない新三郎はお露を愛し、逢瀬を重ねる。しかし、新三郎の下男・伴蔵はある夜、新三郎がドクロを抱いているのを見て、お露の正体が幽霊だと知る。新三郎もお露の正体が幽霊と知り、このままでは命が危ないと魔除けのお札を張り巡らせた部屋にこもるがーー

で、最終的にどうなったかというと、お露さんに金をチラつかされ主人を裏切った伴蔵が魔除けのお札を剥がしてしまい、新三郎はお露さんに手を取られ仲良く(?)あの世行きとなります。お露さんにとってはハッピーエンド?

さて、『四谷怪談』や『皿屋敷』が実話や伝説をベースにしているのに対しこの『牡丹灯籠』は完全フィクションの怪談で、生みの親は明治の大落語家・三遊亭円朝です。25歳のときの作品だそう。

明治の大落語家・三遊亭円朝の写真
『牡丹灯籠』のほか『真景累ヶ淵』『子育て幽霊』など多くの怪談噺を創作した初代・円朝。「名人」の名をほしいままにした大落語家で、幽霊画コレクターとしても有名。
『牡丹灯籠』のベースとなったのは、江戸時代の怪奇小説の元祖ともいわれる怪談集『伽婢子(おとぎぼうこ)』(浅井了意)のなかの「牡丹灯籠」という物語。ちなみにこれは中国明代の怪異小説集『剪灯新話(せんとうしんわ)』のうち「牡丹燈記」を翻案したものだそうなので、大元のネタは中国小説ということになるそう。円朝はこうした怪奇小説をベースに当時実際に起きたいろんな事件などをブレンドして怪談『牡丹灯籠』を生み出したのです。なお、『牡丹灯籠』はとても壮大なドラマで、よく知られるお露さんと新三郎の下りは物語のほんの一部にすぎません。

人外ラブストーリーが昨今ブームとなっていますが、『牡丹灯籠』はある意味、人間×幽霊の人外ラブ怪談なので時代を先取りしているといえるんじゃないでしょうか。

以上、「日本三大怪談」でした。

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