二代目嵐龍蔵の金貸・石部金吉(きんきち)(東洲斎写楽 画)
二代目嵐龍蔵の金貸・石部金吉(きんきち)
主人公兄弟をサポートする貧乏で病弱ないい人、田辺文蔵から金を取り立てるイヤな役。袖をたくし上げてにらみをきかせるその姿はザ・悪役です。でも、悪役の魅力にあふれており、写楽の作品のなかでも代表的な1枚として人気があります。

この役を演じた二代目嵐龍蔵は悪役を得意とし、江戸で人気を博したのですが38歳という若さで世を去りました。次回以降ご紹介しますが、写楽はこの二代目嵐龍蔵を何度か描いています。

いよいよ『花菖蒲文禄曽我(はなあやめぶんろくそが)』の登場人物は次でおしまい。

大谷徳次の奴・袖助(そですけ)(東洲斎写楽 画)
大谷徳次の奴・袖助(そですけ)
「道化役」を得意とした大谷徳次の個性を余すところなく描いた佳作。下がり眉とつぶらな瞳で愛嬌たっぷり。ガッツポーズのように握った右手がまたいい味出してます。

極端に右側に余白を残すという画面構成も写楽ならでは大胆さで、渋い色味のなかで目を引く刀の鞘の赤が全体のアクセントになっています。

さて、お次も同年に上演されたまた別の興行を題材にした役者絵7点をご紹介。

興行が行われたのは1794年(寛政6年)5月、桐座にて。上演されたのは『敵討乗合話(かたきうちのりあいばなし)』という狂言で、剣豪・宮本武蔵佐々木小次郎によるいわゆる「巌流島の決闘」を敵討ちストーリーに脚色した「敵討巌流島」と、父の敵討ちに奔走する姉妹を描いた「碁太平記白石噺」という2つの敵討ちストーリーをひとつの芝居に仕立てたもの。そんなユニークな狂言『敵討乗合話』に登場するキャラクターを写楽は7点の役者絵として残しました。

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では、どうぞ。

松本米三郎のけはい坂の少将実はしのぶ(東洲斎写楽 画)
松本米三郎のけはい坂の少将実はしのぶ
こちらは父の敵討に奔走する姉妹のうち妹ちゃん。ヒロイン格です。「けはい坂の少将」という名の花魁に身をやつし、敵討ちの機会を伺います。その設定がまたヒロインぽい。

しのぶを演じる松本米三郎は当時の人気女形で、ルックスも美しかったのでしょう。わかりやすく美しく描かないことがほとんどの写楽ですが、この作品は純粋に美人です。きりりとした眉毛とくっきり二重の強い眼差しには現代に通じる美しさがあります。ピンク、赤、えんじ色という赤系のグラデーションで描かれた着物もヒロインの美しさを際立たせています。

余談ですが、松本米三郎も31歳の若さで世を去ったそう。役者は早死にの人が多いなぁ。

初代中山富三郎の宮城野(みやぎの)(東洲斎写楽 画)
初代中山富三郎の宮城野(みやぎの)
妹しのぶと一緒に父の敵討に奔走するもうひとりのヒロイン、姉の宮城野。

妹のしのぶがわかりやすく“美人”に描かれていたのに対し、姉の宮城野はかなり個性的です。この役を演じた中山富三郎は、女性らしさの表現法として仕種やセリフまわしなどがナヨナヨとしていたそうで、「ぐにゃ富」というユニークなあだ名がありました。個性的な演技と愛嬌から女形として人気を集めたんだとか。写楽はよく「役者の演技や性格までも絵のなかに描こうとした」といわれますが、この作品もまさにそれでしょう。

三代目市川高麗蔵(こまぞう)の志賀大七(東洲斎写楽 画)
三代目市川高麗蔵(こまぞう)の志賀大七
そんな姉妹が敵と狙うのがこの志賀大七という男。極悪人です。超ヒールです。全体的に黒一色なところからも、いかにこの役が“悪”なのかがわかります。黒っぽい画面のなか、目元の隈取りとチラリと見える襦袢の赤がなんともいえない色気を添えています。はらりと目元にかかる数本の乱れ髪がまた色っぽい。

日本人離れした高い鼻はデフォルメ表現かと思いきや、実際、この三代目市川高麗蔵(のち五代目松本幸四郎)はとっても高い鼻としゃくれたアゴ、鋭い眼光が特徴的な役者だったんだとか。こんなルックスが江戸時代に存在したという驚きの事実。

尾上松助の松下酒造之進(みきのしん)(東洲斎写楽 画)
尾上松助の松下酒造之進(みきのしん)
ものすっごい不幸そうなオーラを漂わせているこちらは、極悪人・志賀大七に殺される松下酒造之進さん。ヒロイン姉妹のお父さんです。浪人という境遇に身を落としたので、月代(さかやき)もボサボサ、無精ヒゲも生えてます。

描かれているのは、今まさに志賀大七に殺されそうになっている瞬間。落ちくぼんだ目には鬼気迫るものを感じます。

四代目松本幸四郎の肴屋五郎兵衞(東洲斎写楽 画)
四代目松本幸四郎の肴屋五郎兵衞
こちらの作品も写楽の代表作のひとつなので、目にしたことのある方も多いんじゃないでしょうか。

ヒロイン姉妹による敵討ちの悲願成就をサポートする重要キャラクター。渋い。姉妹の話を聞き思案している場面だそうで、いかにも思慮深げで頼りがいのある人物として描かれています。着物の格子柄は演者である四代目松本幸四郎が好んだデザインだったんだとか。手にした極太の煙管(きせる)も幸四郎好みのもの。渋い色味のなかでアクセントになっています。

ちなみに、この四代目松本幸四郎は、極悪人・志賀大七を演じた三代目市川高麗蔵のお父さん。親子共演だったんですね。

八代目森田勘弥(かんや)の駕籠かき鶯の治郎作(じろさく)(東洲斎写楽 画)
八代目森田勘弥(かんや)の駕籠かき鶯の治郎作(じろさく)
ヒロインの宮城野(姉)を乗せる駕籠かき役を描いたもの。八の字眉毛とどんぐり眼、への字口がユーモラス。赤い襦袢がつくり出す流れるようなラインが画面全体に軽妙さを与えています。駕籠かきの鶯の治郎作が舞踊を披露するシーンを描いたものだそう。道理でリズミカル。

『中島和田右衛門のぼうだら長左衛門 中村此蔵の船宿かな川やの権』(東洲斎写楽 画)
中島和田右衛のぼうだらの長左衛門と中村此蔵(このぞう)の船宿神奈川やの権(ごん)
漫才コンビのような雰囲気を漂わせるこの2人組は、船宿の主人・権さん(左)とお客の長左衛門さん(右)です。チョイ役なうえに演じている役者も三流役者。

またまた、ちょっと余談。

役者絵というのは現代風にいえばスターのブロマイド。つまり、描かれるのは人気役者であるのが一般的でした。しかし、写楽はこの作品のように無名の役者やチョイ役を描いています。これは異例です。浮世絵というのは版元(はんもと)という総合プロデューサーが全体を統括していたので、絵師が自由に描きたいものを描けたわけではありません。なので金にならない無名役者を役者絵に描くというのは通常ありえなかったわけです。ところが写楽にはそれが許された。これも写楽の大きな謎のひとつです。

さてさて、こちらの作品、じつにユニークですね。

徹底的に対照的に描かれているのはほかの2人組ものと同じ趣向ですが、なんというか凸凹感が秀逸です。特に左側のでっぷりした権さんが魅力的。なんかこんな雰囲気の名脇役、現代でもドラマとかで見かけますよね。

ちなみに、権さんを演じた中村此蔵は「写楽本人なんじゃないか?」という説もあった人物です。

以上、デビュー作28点でした。

「これ写楽だよね」と一般的に知られている作品はほとんどといっても過言ではないほど、このデビュー作に集中しています。裏を返せば、写楽はデビューこそ華々しかったものの先細りして消えていったともいえます。

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投稿日: 投稿日:カテゴリ:カテゴリー 人物, 浮世絵, 芸術・文化

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