『三世瀬川菊之丞の田辺文蔵の妻おしづ』(東洲斎写楽 画)
三代目瀬川菊之丞の田辺文蔵妻おしづ
田辺文蔵の奥さんで、夫とともに兄弟をサポートします。が、やっぱり病弱で貧乏。頭にしめたハチマキは「病鉢巻(やまいはちまき)」というもので、病人役を象徴する小道具です。

おしづを演じた三代目瀬川菊之丞は江戸時代を代表する名女形で、抜群の実力と人気を誇りました。そんな偉大なる瀬川菊之丞の芸風まで写楽は描き出そうとしているようで、大俳優の風格が漂っています。

二代目瀬川富三郎の大岸蔵人妻やどり木(東洲斎写楽 画)
二代目瀬川富三郎の大岸蔵人妻やどり木
ちょっとケンのある美女。ですが、立派なアゴに男性らしさを感じさせます。まぁ、女形は男性ですから当然ちゃ当然ですが。

この役を演じた二代目瀬川富三郎は、先ほど登場の名女形・三代目瀬川菊之丞の弟子で、師匠の声音や身振りをマネたことから「にく富」とか「いや富」なんていうかなりヒドイあだ名をつけられていたらしい。

それにしても、黒髪、白い肌、着物の赤と黒というはっきりとしたコントラストの配色がシックなのに華やかでとてもすばらしいです。

ちょっと余談。

写楽のデビュー作はどれも華やかな印象を見る者に与えますが、使っている色数は多くても6色ほど、少ないものだと3色ほどとものすごく少ない色数で構成されています。でも全然物足りない感じはしない。写楽は色の組み合わせで最大の効果を生むというセンスに長けていたんでしょう。

前述したように背景には「雲母摺」というギラギラのゴージャス手法を使っているので、メインの人物はあえて少ない色数の方がインパクトを持たせらる、と考えたのかもしれません。

またコスパ的にも色数が少ない方が安くすむので、背景にお金をかけている分、全体の色数が少ないのは製作費の面から見ても経済的です。この辺りは版元の蔦屋重三郎の意向もあるでしょうね。

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閑話休題。

さてさて、先ほどご紹介した二代目瀬川富三郎が演じたやどり木という役を写楽はもう1枚描いています。よほど印象的だったんでしょうかね。

二代目瀬川富三郎の大岸蔵人妻やどり木と中村万世(まんよ)の腰元・若草(東洲斎写楽 画)
二代目瀬川富三郎の大岸蔵人妻やどり木と中村万世(まんよ)の腰元・若草
丸い人と細長い人という対照的なコンビ。写楽は2人組を描くときはデフォルメが効きすぎるほど対照的にするのを常套としていました。細面の二代目瀬川富三郎に対し、中村万世はまん丸の顔。富三郎の手が上向きならば、万世の手は両手を揃えて下を向ける、やどり木の品格を示すようなピンと伸びた背筋に対し、腰元の若草は背を丸めへりくだったような姿という徹底した対照ぶり。

丸顔の女性の方が親しみやすそうです(個人的感想)。

『三世沢村宗十郎の大岸蔵人』(東洲斎写楽 画)
三代目沢村宗十郎の大岸蔵人(くらんど)
主人公の兄弟の敵討ちを助ける家老・大岸蔵人。二代目瀬川富三郎演じるやどり木はこの大岸蔵人の妻です。

退色してしまってわかりにくいのですが、ヒゲの剃りあとはもっと青々としていたようです。また、扇は金色だったとか。ずいぶん印象が変わりそうです。当時の状態で見られないのが惜しい……。ちなみに扇に描かれている見ていると目の回りそうなこの模様は「観世水(かんぜすい)」と呼ばれる流水模様です。

大岸蔵人を演じた三代目沢村宗十郎は、体格も立派でいろんな役柄をこなせる芸達者な役者だったそうで、この絵からも実力派俳優らしいどっしりとした風格を感じます。

三代目佐野川市松の祇園町の白人(はくじん)おなよ(東洲斎写楽 画)
三代目佐野川市松の祇園町の白人(はくじん)おなよ
まずタイトルの「白人」というのは「白色人種」という意味の言葉ではありません。この「白人」とは「素人(しろうと)」という意味で、幕府非公認の私娼を「白人」と呼びました。ちなみに公娼は「黒人」つまり「玄人(くろうと)」といいます。

祇園町の私娼おなよさんですが、なんだかゴツいですね……。事実、おなよを演じた三代目佐野川市松は女形だけど隠しきれない男らしさが溢れていたそう。写楽はそんなところも美化せず描きました。

着物の柄がチェックというのもオシャレですね。このチェック模様は「市松模様」というもので、美貌の女形として一世を風靡した初代佐野川市松が舞台衣装で身につけたことから「市松模様」と呼ばれるようになり、人気の定番柄となりました。

最近ではあのエンブレムにもデザインされ話題になりました。





2020年の東京オリンピックのエンブレムでは市松模様がデザインされている

2020年の東京オリンピックのエンブレム。

ステキな模様というのは時代を超えてもやっぱりステキです。

おなよを描いた写楽の絵はもう1枚あります。こちら。

三代目佐野川市松の祇園町の白人(はくじん)おなよ(東洲斎写楽 画)
三代目佐野川市松の祇園町の白人おなよと市川富右衛門の蟹坂藤太
やっぱりやりすぎなくらい対照的。細面と丸顔、上がり眉と八の字眉毛、つり目とどんぐり眼……。

市川富右衛門が演じる蟹坂藤太から漂う“だめんず”感がいいですね。

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投稿日: 投稿日:カテゴリ:カテゴリー 人物, 浮世絵, 芸術・文化

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