岩井喜代太郎の鷺坂左内妻・藤浪と坂東善次の鷲塚官太夫妻・小笹(東洲斎写楽 画)
岩井喜代太郎の鷺坂左内妻・藤浪と坂東善次の鷲塚官太夫妻・小笹
左の女性は善人役・鷺坂の妻、右の女性は悪役・鷲塚の妻。夫の善&悪がそのまま妻たちにも反映されています。着物の色や目の表情、手のしぐさなどとことん対照的に表現することで、善と悪の対比をより明確にしています。それにしても、絶妙な憎たらしさ! こんな顔のイジワルばあさん、いるいる。

「写楽」というと「ひとりの役者の上半身を描いた作品」という印象が強いので、2人組を描いた作品もあったんだなぁ、と意外に思う方もいるんではないでしょうか。のちほど紹介しますが、2人組を描いた作品はユニークなものが多いので、新たな写楽作品の魅力発見になると思います。

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さて続き。

『市川男女蔵の奴一平』(東洲斎写楽 画)
市川男女蔵(おめぞう)の奴(やっこ)一平
悪役に立ち向かう勇敢な姿を切り取った緊張感にあふれる傑作。演じる市川男女蔵は当時まだ14歳という少年役者で、その若さが顔の輪郭や口元、目などの表現から伝わってきます。画面全体が初々しい爽やかさに満ちているようです。単純にイケメンなので目の保養になる作品です。

そんなイケメン一平が斬りかかろうとしているのが、

『三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛』(東洲斎写楽 画)

冒頭で紹介した江戸兵衞。かっこいい絵だなと思っていたんですが、描かれているのは悪役だったんですねぇ。

以上、『恋女房染分手綱』の登場人物を描いたデビュー作9点でした。

『恋女房染分手綱』と同時上演された『義経千本桜』という狂言からも1点役者絵を描いています。こちら。

二代目沢村淀五郎の川つら法眼と坂東善次の鬼佐渡坊(東洲斎写楽 画)
二代目沢村淀五郎の川つら法眼と坂東善次の鬼佐渡坊
こちらも対照的な2人組を描いている作品。なんとなーくわかるかと思いますが、左の人物(川つら法眼)が悪役で右の人物(鬼佐渡坊)が善役です。善役が長髪なら悪役は丸坊主(もみあげは長髪!?)、善役が手を握っていれば悪役は手をパッと開く、善役の口が開いていれば悪役の口は引き結ぶ……と、ここでも各所に対照的な表現をうまく散りばめ両者のコントラストを強めています。悪役の隈取りはなんだかアメコミヒーローみたいでちょっとかっこいい。

余談ですが、写楽の役者絵のタイトルは「役者名」+「役名」となっています。

さて、お次は別の興行を題材にした役者絵11点をご紹介。

先ほどご紹介した『恋女房染分手綱』と同時期(寛政6年5月)に都座で上演された『花菖蒲文禄曽我(はなあやめぶんろくそが)』という実際に起きた敵討ち事件を脚色した狂言の登場人物たちを描いています。では、どうぞ。

三代目坂田半五郎の藤川水右衛門(東洲斎写楽 画)
三代目坂田半五郎の藤川水右衛門
ヒゲ、青すぎなこの人物・藤川水右衞門は、数ある歌舞伎作品のなかでも有名な超悪役。主人公の兄弟が「父と兄の敵」と狙う悪党です。着物の色も隈取りもとにかく色づかいは地味。ですが、それがこの人物の持つ「悪の凄み」を効果的に演出しています。腕をまくる威圧的なポーズも秀逸です。

ちなみに、『がんばれゴエモン』みたいなこの髪型は「五十日鬘(ごじゅうにちかずら)」という月代(さかやき)がボサボサに伸びたヘアスタイルで、盗賊や囚人など悪役に使われました。

この超悪役を演じたのは悪役の大ベテランとして人気を博した三代目坂田半五郎。余談ですが、先代の二代目坂田半五郎もこの役をアタリ役としていたため、二代目の13回忌に当たるこの年、追善供養として『恋女房染分手綱』が上演され、三代目が藤川水右衞門を演じました。しかし、悲しいかな、三代目坂田半五郎は翌年、39歳の若さで世を去りました。合掌。

二代目坂東三津五郎(みつごろう)の石井源蔵(東洲斎写楽 画)
二代目坂東三津五郎(みつごろう)の石井源蔵
先ほどの超悪役・藤川水右衛門と対峙しているのが、こちらの若者。父の仇である藤川に今にも斬りかかろうという瞬間を描いています。なびく髪の毛に源蔵の決死の覚悟を感じます。ゾワゾワって感じ。切羽詰まった表情も見ているだけで息がつまるようです。

悪役の藤川水右衛門の着物が黒系、源蔵の着物が白というのも善と悪の対比になっています。ちなみに、源蔵の着物には「空摺(からずり)」という凸凹加工が施されています。今風にいえばエンボス加工ってところ。浮世絵ってオシャレです。

三代目市川八百蔵(やおぞう)の田辺文蔵(東洲斎写楽 画)
三代目市川八百蔵(やおぞう)の田辺文蔵
敵討ちに燃える兄弟を支えるポジションの人。いい人そうだけど病弱で貧乏。そんな雰囲気は画面からもビシバシ伝わってきます。演じている三代目市川八百蔵は芸達者な役者だったらしい。着物の赤茶と黒、色味は渋いですが、黒のラインの入りかたがリズミカルで地味な印象は受けません。モスグリーンがアクセントになっていてステキです。

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投稿日: 投稿日:カテゴリ:カテゴリー 人物, 浮世絵, 芸術・文化

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