• 更新日:2022年4月2日
  • 公開日:2016年12月14日


刑罰の「入墨」とファッションの「彫り物」


そして、江戸時代の初め頃。まずは、侠客といった渡世人たちの間で、お守りとして「南無阿弥陀仏」などの経文を肩の先に彫ることが行われるようになりました。

侠客と刺青、という組み合わせはしっくりきますが、ちょっと意外な職業の人々も江戸時代初期の刺青文化を牽引しました。

それは、遊女たちです。

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大坂や京など上方の遊女たちの間でブームとなったのが「起請彫り(きしょうぼり)」と呼ばれる刺青です。

これは、馴染み客への“愛の証”として、遊女が自分の上腕に客の年齢の数だけホクロの刺青を入れたり、「(客の名前)命」と相手の名前を体に刻み込むもの。「入れボクロ」ともいいます。

今でも恋人や家族の名前のタトゥーをする人がいますが、江戸時代からあったんですね。ただ、心が離れた時の後悔はハンパなさそうです。

『風俗三十二相』より「いたさう」(月岡芳年 画)
柔らかそうな二の腕に、愛する人の名前を刻み中の遊女。いたそ~(『風俗三十二相』より「いたさう」月岡芳年 画)
江戸時代中期、現代の「刺青=悪い・怖い」というマイナスイメージを決定づける出来事が起こります。罪人への刑罰のひとつに「入墨刑」が採用されたのです。

余談ですが、「いれずみ」という言葉を漢字で表記するとき、「刺青」「入墨」などの候補があがります。また、「いれずみ」のことを「彫り物(ほりもの)」ともいいますが、じつはそれぞれ意味が違いました。

まず、一般によく使われる「刺青」ですが、これは「入墨」の文章語で、日本文学史を代表する小説家・谷崎潤一郎の小説『刺青(しせい)』(明治43年)が有名になって以降、「いれずみ=刺青」となり、定着しました。なので、江戸時代には「刺青」という言葉はありません

次に「入墨」ですが、これは「体に針などで傷をつけ、そこに墨などをすりこみ文字や絵を描くこと」を意味し、「文身(ぶんしん)」ともいいます。江戸時代には「入墨」といえば罪人への刑罰として彫られる「いれずみ」を指しました

一方、自分で彫りたくて彫る「いれずみ」は「彫り物」と呼ばれました。上方では「彫り物」を「がまん」というなんともストレートな呼び方をしたとも。

まとめると、以下。ここ、テストに出ます。

  • 入墨=罪人への烙印
  • 彫り物=ファッション

現代では「刺青」も「入墨」も「彫り物」もごっちゃになってますが、歴史的に見るとぜんぜん別物だったのであります。

さて、話を「入墨刑(墨刑)」に戻しましょう。

入墨が罪人への刑罰として幕府により採用されたのは、八代将軍・徳川吉宗の時。大都市を中心に増加する犯罪を抑制するのが目的だったそう。

八代将軍・徳川吉宗の像(和歌山県立近代美術館)
江戸時代中期、幕政改革をいろいろやった働き者の暴れん坊将軍
「入墨刑」は刑としては軽いもので、軽い盗みを働いた罪人が追放刑や敲(たたき)刑に処せられるとオプションとして入墨を施されました。ちなみに、入墨刑を科せられるのは町人だけで武士には適応されませんでした。ちなみのちなみに、10両以上を盗むと死罪です。

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“罪人の烙印”である入墨刑は、罪人がどこで犯罪をおかしたのかがわかるように、藩や地域によって入れる場所やデザインが異なりました

たとえば江戸だとこんな感じ。



罪人の烙印である入墨刑(江戸版)

左腕の肘下に9㎜(三分)ほどの太さの線が2本彫られました。結構、目立ちそう。

たとえば京だとこんな感じ。



罪人の烙印である入墨刑(京版)

左腕の二の腕に12㎝×9㎜ほどの長方形が2つ彫られました。湿布みたいでちょっと恥ずかしい……。

腕に彫られることが多かった「入墨刑」ですが、地域によっては顔面の場合もありました。

かなりインパクトがある顔面入墨刑をいくつかご紹介すると。

まず、高野山。



罪人の烙印である入墨刑(高野山版)

額に巨大なホクロ! いや、入墨。千昌夫かな? 心なしか罪人の表情に悲哀が漂っています。

お次は、肥前(現・佐賀県)。



罪人の烙印である入墨刑(肥前版)

わあ、ドストレート!!

バツって……。

犯罪はもちろんバツですが、それにしてもこんなでっかくバツって……。犯罪抑止力ありそうです

芸州(現・広島県)はもっとすごい。



罪人の烙印である入墨刑(芸州版)

初犯は額に「一」。わかりやすい。

再犯すると、



罪人の烙印である入墨刑(芸州版)、再犯の場合

画数がひとつ増えます。

で、反省もせず3回も罪を重ねると……




罪人の烙印である入墨刑(芸州版)、3回目の場合

ゲェーっ!!「犬」の入墨!!

これは恥ずかしいにもほどがある。絶対、「ほら、ワンって言えよ(ニヤニヤ」とからかわれます。3回も罪を重ねてはいけませんね(戒め)。

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