• 更新日:2019年7月20日
  • 公開日:2019年7月20日


新しい時代を生きる明治の美人たち


第3章のテーマは「明治のおきゃん」。江戸時代から明治時代へ、大きく時代が変わり人々の生活も一変しました。西洋文化の影響もあり女性たちのファッションや生き方も激変。その姿は浮世絵に描かれた女性たちからもうかがえます。

本展では幕末から明治を代表する3人の絵師、月岡芳年豊原国周(読み:くにちか)、揚州周延(読み:ようしゅうちかのぶ)の作品が取り上げられていました。明治になると化学染料が普及したため、どの作品もビビッドな色合いがまぶしく、新時代の到来を画面からも感じました。

まずは豊原国周の『開花人情鏡(かいかにんじょうかがみ)』という美人画シリーズ。文明開化期の女性風俗をテーマにしたシリーズで、江戸時代の残り香が色濃く漂いつつ写真機など西洋文明を象徴するような小道具が登場しているのが特徴です。

明治のカメラ女子

『開花人情鏡 写真』(豊原国周 画/1878年)
『開花人情鏡 写真』(豊原国周 画/1878年)
キリッとした表情の美女の前にあるのは写真機。つまりカメラ。当時のカメラは「木製暗箱」と呼ばれていたとか。現代のカメラと異なり露出にとても時間がかかるため、撮影中はじっとしていなければならず忍耐力を試されたそう。

背景の赤がものすごくビビッドですね。これは「洋赤」と呼ばれた化学染料で明治時代を象徴するような色です。

『開花人情鏡 写真』(企画展『浮世絵ガールズ・コレクション』より)

実際の展示のようすはこんな感じ。新品かと思うほど発色がよくて感動します。

お次は“最後の浮世絵師”月岡芳年による『東京自慢十二ヶ月』。四季折々の東京の名所と当時人気の芸妓を組み合わせた美人画シリーズです。芳年といえば“血まみれ芳年”の異名でも知られるような武者絵や残酷絵、幻想的な妖怪などの絵が有名ですが、華やかな美人画もとてもすばらしい。

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浴衣のかわいさがヤバい

『東京自慢十二ヶ月 六月 入谷の朝顔 新ばし 福助』(月岡芳年 画/1880年)
『東京自慢十二ヶ月 六月 入谷の朝顔 新ばし 福助』(月岡芳年 画/1880年)
現在でも「朝顔まつり」でにぎわう入谷は、明治初期に入谷の植木屋が朝顔の栽培を始めたことから朝顔の名所となりました。その入谷で大輪の花を咲かせる朝顔の鉢を抱えるのは、新橋の美人芸妓・福助。あだっぽい色気がたまりません。なのに猫柄の浴衣がめちゃくちゃカワイイ! 明治のギャップ萌えです。

まぁ、怖いわぁ

『東京自慢十二ヶ月 七月 廓の燈篭 仲の町 小とみ』(月岡芳年 画/1880年)
『東京自慢十二ヶ月 七月 廓の燈篭 仲の町 小とみ』(月岡芳年 画/1880年)
吉原遊郭での燈篭イベントとそれを楽しむ美女。燈篭に描かれた昔話「舌切り雀」のクライマックスシーンに驚く表情にときめきます。燈篭の灯りが着物に映ってピンク色に染まっている表現に西洋絵画の影響を感じます。

余談ですが、後年、芳年は妖怪画集『新形三十六怪撰』のなかでも「舌切り雀」のクライマックスシーンを描いてます。こちら。

『おもゐつゝら』(月岡芳年 画/1892年)
『おもゐつゝら』(月岡芳年 画/1892年)
2つを比べるととてもよく似ていますね。

『東京自慢〜』のほうではまん丸目玉だった葛篭(つづら)が『新形三十六怪撰』ではタレ目になっていたり、新たにカタツムリみたいな妖怪が増えてたり違いを比べるのも楽しいですね。それにしてもお婆さんコエェ……。

お次は揚州周延による『現世佳人集』(1890年)。周延は徳川将軍家をテーマにした『千代田の御表』や大奥のようすを描いた『千代田の大奥』など懐古的な作品でよく知られる絵師です。

『現世佳人集』は“明治時代中期の理想の美人”としてさまざまな職種や立場の女性9人を描いたもの。まずはこちらをご覧ください。

『現世佳人集』(揚州周延 画/1890年)
『現世佳人集』(揚州周延 画/1890年)
右下から「権妻」「紳士夫人」「教師」「貴顕夫人」「女官」「貴顕令嬢」「学校生徒」「紳士令女」「芸妓」と並んでいます。洋装の女性がいるのが目を引きます。当時、女性教師は新しい職業として女の子たちの憧れだったんだとか。多様化する女性の生き方が美しく描かれています。

さて今度は明治期の少女たちの夢や憧れを反映させた『幻燈写心競(げんとうしゃしんくらべ)』というシリーズ。こちらも揚州周延の作品です。

丸窓のようなところに描かれるのは当時の女性たちの夢や憧れ。メインに描かれた女性が空想しているかのような表現方法がユニークです。

海水浴ってどんなものかしら?

『幻燈写心競 海水浴』(揚州周延 画/1890年)
『幻燈写心競 海水浴』(揚州周延 画/1890年)
たらいの水で体を拭きながら女性が夢想するのは当時まだ新しかった海水浴。傘(帽子?)を手ぬぐいで固定しながら泳いでいるのが興味深いですね。あと、女性の背後にある豪華な金魚鉢のなかですいすい泳ぐ金魚の丸っこいフォルムがかわいすぎます。

行ってみたいな海外へ

『幻燈写心競 洋行』(揚州周延 画/1890年)
『幻燈写心競 洋行』(揚州周延 画/1890年)
洋装にぱっつん前髪のモダンな少女がイスに腰かけています。テーブルの上には洋書らしき本も。西洋文化に憧れる少女の夢は海外渡航のようです。

本展ではこちらの絵の参考資料として、国学院大學の母体である皇典講究所で実際に使われていた明治時代の西洋風イスが展示されていました。

明治時代の西洋風イス
保存状態のいいイスで見るからにゴージャス⭐︎ 現代人の目から見ても十二分にステキでした。

最後はメディアミックスと美人画

こちらは豊原国周による『東京自慢名物会(とうきょうじまんめいぶつえ)』(1896〜97年)という全100枚を超える大作。

上段に東京の名店案内、下段右下に人気芸者、下段左下には関根竹二郎によるデザイン集が配されるという豪華詰め合わせ。名店コーナーには住所や電話番号も書かれているので、単なる鑑賞用ではなく広告としての役割もあったようです。

女の子がかわいい

『東京自慢名物会』「三遊亭遊三」「ビラ辰」「鰻蒲焼 田所町 和田平」「よし町 ききょう家よし子 佐藤よし」「見立模様大伝馬町之織物」
『東京自慢名物会』「三遊亭遊三」「ビラ辰」「鰻蒲焼 田所町 和田平」「よし町 ききょう家よし子 佐藤よし」「見立模様大伝馬町之織物」
和田平は江戸時代から続くうなぎの名店だそう。絵手紙っぽいタッチで味があります。芸者のよし子ちゃんが現代人の目から見てもものすごくかわいいです。

パッケージがオシャレ

『東京自慢名物会』「古今亭今輔」「ビラ辰」「酒悦本店 福神漬」「下谷すき屋町 竹松葉屋つる松 大高すず」「見立模様不忍弁天染」
『東京自慢名物会』「古今亭今輔」「ビラ辰」「酒悦本店 福神漬」「下谷すき屋町 竹松葉屋つる松 大高すず」「見立模様不忍弁天染」
酒悦本店は上野に今もある老舗のお漬物屋さん。福神漬って明治時代にもあったんですね。そしてパッケージがレトロかわいくてシャレてる! ちなみに現在のパッケージはこんな感じ。

酒悦の福神漬
画像引用元:酒悦
左下のデザイン画のところは酒悦本店のある上野にちなんで不忍池の蓮。幾何学模様とパステルカラーの組み合わせでモダンなデザインが素敵です。

以上です!

出口のところには美人コンテストの投票所があるので、お気に入りの浮世絵ガールに一票を投じることができます。最後まで楽しい展覧会でした。

2019年8月25日まで開催していますので、ぜひぜひ!本当にオススメです!

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