さて、東洲斎写楽といえばデフォルメの効いたインパクトのある役者絵(上半身だけの)が有名ですよね。たとえば、これとか。
前回の繰り返しになりますが、一般的に写楽作品として有名なものはほとんどがデビュー作28点に集中しています。つまり、第2期以降はマイナーな作品がたくさん。
第1期の役者絵は1794年(寛政6年5月)に上演された芝居の登場人物を描いたものでしたが、第2期では同年7月・8月に上演された芝居の登場人物たちを描いています。
さてさて、前置きはこれくらいにして実際に作品を見ていきましょう!
デビュー作から大きく変化した第2期の作品たち
こうまで潔く尻を向けて立つ役者絵って珍しいんじゃないでしょうか。堂々たる尻です。ちょっと不自然なほどのポージングで立っていますが、それがまた浮世土平という悪役のふてぶてしさを表現しているようです。その横でカッコよく見得を切るイケメン、という対比がおもしろいです。
セクシーポーズをしているわけではありません。この人は悪役で、人を殺したところ。殺された人物の息子が近づいてきたので袖で顔を隠しているんです。刀の柄にかけた手が不気味です。殺(ヤ)る気に満ち満ちています。ギロッとにらむ眼光の鋭さもポイント。また、手足の線描に比べてとても太い着物の線が独特の雰囲気を生んでいます。
先ほどの悪役が殺した人の息子さんが、この人。手にした提灯の明かりに浮かび上がる敵(かたき)の姿を見て刀に手をかけたところです。この作品と上の作品は2つでセットになっているわけです。
頭から背中、足先にかけて描かれるS字ラインにこの人物の緊張を感じます。そして、裾からチラッとのぞくつま先がすばらしい!特にそった親指。このあたりの表現に写楽の非凡さを感じます。
悪人とその人に殺された息子、が登場することからもわかるようにこのお芝居『二本松陸奥生長(にほんまつみちのくそだち)』は、お家騒動と敵討ちをミックスさせたストーリー。上演されたのは1794年(寛政6年7月)で、「河原崎座」という芝居小屋で興行にかけられました。
さて、この時に同時上演されたのが『桂川月思出(かつらがわつきのおもいで)』というお芝居(厳密には舞踊)で、年の差カップルの心中もの。その登場人物たちも写楽は7点の作品にしています。
立ち姿の男性と座り姿の女性。女性の腕と足がつくる曲線が艶めかしいです。許されぬ恋に落ちた年の差カップルの2人は、これから桂川に身を投げともに死出の旅路に向かうところ。2人の着物の縦じまはまるで川の流れのようにも見えます。
ちなみにお半ちゃんを演じた四代目岩井半四郎は、愛嬌のある丸顔から「お多福半四郎」の愛称でファンに親しまれた女形。写楽はデビュー作28点のなかでも半四郎の丸顔をユーモラスに描いています。
親子ほども年の離れた男性と恋に落ちるヒロインのお半。肩上げもとれない振袖姿はまだまだ子どもである証。黒地の着物に流れる白いラインの大胆さ、そこに華を添える襦袢や帯の赤い色。まだまだ子ども、それでも道ならぬ恋に溺れるというこのお半の危うさやアンバランスさを感じます。
男性がじっと見つめる先にいるのがお半ちゃん。身なりからしてお金持ちそうなオジさまです。手にした煙管(きせる)とその持ち方に大人の余裕を感じます。チェック×チェックというのもオシャレ上級者ならではのファッションです。
娘ほど年の離れたお半ちゃんとの恋に燃える帯屋長右衛門の妻です。顔から足元にかけて弧を描くようなラインが美しい。黒い帯が画面全体を引き締めています。帯を締める手がいいですねぇ。ギュッと掴んだ帯の描く直線が、この女性の芯の強さを象徴しているようです。
見事なS字ライン。着物の縦じまと相まってものすごくスラリと涼しげ。帯の深い緑色が全体をしっとりと落ち着かせています。煙管を持つ手元も「これぞ女形!」という色気を漂わせます。
懐から出した匕首(あいくち)をチラつかせる悪漢。V字に開いた襟元から伸びる首から顔にかけての白い部分と、同じくV字に開いた裾から伸びる脛から足元にかけての白い部分がシンメトリーになっているようです。
見ての通り悪役です。両手を開き見得を切っています。谷村虎蔵は悪役を得意とした役者なのですが、写楽はデビュー作28点のなかでも谷村虎蔵を描いています。2つを比較してみると、その表情はほぼ一緒。
ほらね。
これ以外にも写楽は同じ役者だと顔の描写がほぼ一緒ということがままあります。これも写楽の謎のひとつです。
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