最近、展覧会でも人気の春画。意外と知られていないのですが、江戸時代の大物浮世絵師のほとんどが春画を描いていました。世界に誇る天才・葛飾北斎、猫大好きな奇想の絵師・歌川国芳、美人画の大家・喜多川歌麿などなど。春画は稿料が高かったので、生活のためイヤイヤながら描いていたのでは?ともいわれますが、出来上がった春画やペンネームからはノリノリな感じが伝わってきます。江戸の六大浮世絵師を中心に、歴史に残る傑作春画&とんでも春画をご紹介します!
有名絵師1人目
葛飾北斎(かつしかほくさい)
春画用ペンネームは鉄棒ぬらぬら、紫色雁高(ししきがんこう)。江戸時代どころか日本を代表する絵師。代表作の「凱風快晴」(通称、赤富士)「神奈川沖浪裏」をはじめとする『冨嶽三十六景』や『北斎漫画』は、絵に興味のない人でもなんらかのかたちで一度は目にしたことがあるはず!生涯現役。引越し魔。触手モノの元祖!?
「蛸と海女」
これは艶本『喜能会之故真通』(きのえのこまつ)のなかの木版画の1枚で、海女が2匹の蛸に襲われています。いわゆる『タコ(蛸)の春画』として有名なこの作品の作者は北斎です。いまでいう触手ものですが、これ150年前ぐらいの作品です。葛飾北斎、時代を先取りしすぎ。興味のある方のため地文をざっくり現代語訳すると、
大だこ「いつかいつかと狙ってた甲斐あって、とうとう捕まえたぞ。むっくりしたいい秘所だ。さあさあ、吸って吸って吸い尽くして堪能してから、いっそ竜宮へ連れて行って囲ってやろう」
ちなみに、この地文を手がけたのも葛飾北斎です。イヤイヤやっていた仕事とは思えません。
男女の顔が性器
『萬福和合神』上巻の表紙絵
北斎が74歳の時に手がけた艶本『萬福和合神』の表紙絵です。葛飾北斎は70歳を越えたあたりからいよいよ凄みを増すのですが、これも老いを感じさせない一枚。
モチーフとなっているのは、江戸時代にもしばしば画題となった古代中国の変わり者の隠者である寒山と拾得を描いた「寒山拾得図」というもの。手を取り合ってとっても仲よさそうなのが微笑ましい。
女性の足のいやらしさが秀逸
『富久寿楚宇(ふくじゅそう)』より
漁師と海女のカップルがはげんでいるところ。左下に貝がたくさん入った籠も見えます。乱れて流れる黒髪が和のエロスを感じさせます。地文によりますと、ほかの漁師と浮気しているというデマを必死に否定する海女に対し、漁師はそんなことより今はアツいセックス楽しもうぜ!といっております。漁師の着物のデザイン、海女の赤い腰巻や黒い髪など色彩も鮮やかで、さすが北斎という感じですね。
有名絵師2人目
鈴木春信(すずきはるのぶ)
江戸時代中期に活躍。お茶屋のアイドル「笠森お仙」など、線の細い華奢な少女を得意とした浮世絵師。鈴木春信の春画はパステルカラーで描写もひかえめ。エロかわいく、発想がユニークな浮世絵をご紹介します。小人の大冒険
『風流艶色真似ゑもん』より
春信の艶本『風流艶色真似ゑもん(ふうりゅう えんしょく まねえもん)』(1770年)は、秘薬で小さくなってしまった主人公・浮世之介が「真似ゑもん(まねえもん)」と名乗り、色道の奥義を探求するという物語。小人になって情事を覗こうというアイデアが250年以上前から存在していたことに驚きます。
さて、この春画にも小人の主人公「真似ゑもん(まねえもん)」はいます。
どこにいるかというと……
ここですね。
右上の文机の脚の穴から指をくわえて情事を見ています。
ちなみに、部屋の外に目を向けると、
猫も交尾してます。猫などの動物も脇役として春画によく登場し、見る者の笑いを誘います。
この春画はまさに笑い絵といった感じで、性的なきわどさはなく全体にほのぼのしています。『風流艶色真似ゑもん』は人気作だったようで、続編や類似品も出たとのこと。
子どもそっちのけ
『風流座敷八景』より「扇子晴嵐」
18世紀半ば頃に制作された春信の艶本『風流座敷八景』は8枚の春画が収録されていますが、これはそのなかの1枚。一見すると女性同士の交わりに見えますが、右の人物は男性です。若いイケメンの扇子売りです。イケメン扇子売りが商品の扇子を取り出そうと背中を向けたところ、欲求不満だったのかなんなのか、お客であるご婦人が襲いかかってきた、これはそんな場面です。絵の左下で、女性の子どもと思われるチビっ子が「われ関心なし」と金魚とたわむれているのがなんともシュール。
ちなみに春画には子どもがよく登場し、セックスの邪魔をしたりイタズラしたりしています。これは「笑い絵」と呼ばれた春画らしい笑いを誘う手段のひとつだったと考えられています。
鈴木春信の春画はどこかほのぼの感が漂っています。
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