動乱の幕末に“笑い”をもたらし上方で大ヒット
<11作目>
『諺臍の宿替(ことわざへそのやどかえ)』(幕末~明治初期)
一荷堂半水 文/歌川芳梅 画
幕末の上方で大ベストセラーとなり、明治まで出版が続いたロングセラーことわざ集。
「目から鼻に抜ける」「木で鼻をくくる」など今もおなじみのことわざから、今では聞かなくなってしまったことわざまで、さまざまなことわざを”イジりたおした”珍本です。
ちなみに、『諺臍の宿替』というヘンテコなタイトルの意味は「ヘソがお引越ししちゃうくらいおもしろいよ!」ということらしい。
ここがヒットのポイント!
言葉遊びに富んだ文章やタイトルも秀逸だが、なにより読者にウケたのがインパクト大のシュールな挿絵。誰かに見せたくなったに違いない。
言葉遊びに富んだ文章やタイトルも秀逸だが、なにより読者にウケたのがインパクト大のシュールな挿絵。誰かに見せたくなったに違いない。
たとえば・・・・・・
右は鼻の穴から小さい人がコンニチハしています。片目からは下半身が見えているので、目から入って鼻へ出てきたところのようです。
とにかくたいへんなことになっています。これ、なんのことわざの絵かといいますと、賢いさまを表すことわざ「目から鼻に抜ける」。言葉の通りにビジュアル化したら大惨事。
ちなみに、中央の男性は「木で鼻をくくる」。そのお隣は「目が節穴」の男性。怖い…。
男性の鼻の穴から盛大に飛び出した鼻毛に女性がぶらさがっています。かなりシュールなこの絵のことわざは「鼻毛を読む」。その意味は、女性が自分に惚れている男を思うようにあしらうこと。
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心中ブームを巻き起こした美しき悲恋
<12作目>
『曽根崎心中』(1703年)
近松門左衛門 作
~あらすじ~
場所は大坂。醤油屋のマジメな手代・徳兵衛と天満屋の美しい遊女・お初は、客と遊女の関係を超えた相思相愛の仲。いずれお初を妻にと思っていた徳兵衛だったが、店の主人に跡取りにしたいから姪と結婚しろ、と迫られる。さらに親友に金を騙し取られ進退窮まった徳兵衛は死を決意。その覚悟を察したお初は徳兵衛と手に手を取って死出の旅路に向かう――
場所は大坂。醤油屋のマジメな手代・徳兵衛と天満屋の美しい遊女・お初は、客と遊女の関係を超えた相思相愛の仲。いずれお初を妻にと思っていた徳兵衛だったが、店の主人に跡取りにしたいから姪と結婚しろ、と迫られる。さらに親友に金を騙し取られ進退窮まった徳兵衛は死を決意。その覚悟を察したお初は徳兵衛と手に手を取って死出の旅路に向かう――
初演から300年以上経った現代でも繰り返し上演される人形浄瑠璃の傑作。作者は近松門左衛門。
『曽根崎心中』は、1703年(元禄16年)5月22日に曽根崎村で実際起きた心中事件を題材にしたものですが、近松門左衛門は事件後わずか1ヶ月という超スピードで脚本を仕上げました。
公演は空前の大ヒットとなり、台本にあたる「浄瑠璃本」も刊行されるやベストセラー、『曽根崎心中』人気は“心中ブーム”という社会現象を引き起こすほど加熱しました。その人気に危うさを感じた当時の将軍・徳川吉宗が心中物の上演・出版を禁止するほどでした。
ここがヒットのポイント!
事件後わずか1ヶ月での発表というホットさと、凄惨な心中事件を美しい悲恋の物語に仕立てたところ。
事件後わずか1ヶ月での発表というホットさと、凄惨な心中事件を美しい悲恋の物語に仕立てたところ。
心中に向かう徳兵衛とお初の道行シーンは特に名文として有名。
「この世の名残り 夜も名残り 死にゆく身をたとふれば あだしが原の道の霜 一足ずつに消えてゆく 夢の夢こそ あはれなれ――」
江戸の都会っ子たちに雪国の生活を知ってほしい
<13作目>
『北越雪譜(ほくえつせっぷ)』(1837年)
鈴木牧之(ぼくし)作・画
こちらは、豪雪地帯である越後国魚沼(現・新潟県魚沼市)の生活を生き生きと描いた大ヒット随筆。作者・鈴木牧之は魚沼の出身で、家業の関係で江戸へ来た際に江戸の人々が雪国の暮らしをまったく知らないことにビックリし、「そうだ、雪をテーマにした随筆を書こう」と思い立ったそう。
ですが、地方出身の鈴木牧之が江戸で出版するのは簡単ではなく、出版にこぎつけるまでには紆余曲折がありました。さて、『北越雪譜』はどんな内容かというと、雪の結晶のスケッチや成分解説にはじまり、雪国と江戸など暖かい国との違い、雪国の名産品、雪国ならではの奇習や奇譚、山岳地方の方言などなど実に多彩。
『北越雪譜』は一説に販売部数700部といわれるベストセラーとなりました。その後も何度も出版が重ねられ明治末まで出版されるロングセラーにもなりました。
ここがヒットのポイント!
雪国の実態がさまざまな視点から描かれており、知られざる雪国ライフへの読者の好奇心をかきたてた。
雪国の実態がさまざまな視点から描かれており、知られざる雪国ライフへの読者の好奇心をかきたてた。
江戸時代にベストセラーとなったものは小説や随筆といった「読み物」ばかりではありませんでした。今でいう健康書やガイドブックなどの実用書や趣味本にもベストセラーとなったものが数多くありました。