• 更新日:2017年8月18日
  • 公開日:2016年6月14日




火の魔力というものはたしかにあるようで、現代と同じく江戸時代にも連続放火魔がいました。時は幕末、江戸市中の寺で不審火が相次ぎました。ある火事の時、寺の小僧が見かけた不審な人物を捕らえてみるとなんとその正体は……。

事件簿その5
連続放火魔の正体は武士!?

火事にとりつかれた男「ぼや金」


燃え盛る炎と対峙するのは「い組」の町火消し。「ぼや金」もこうした火事に胸を高鳴らせていたのか(『月百姿』「烟中月」月岡芳年 画)
燃え盛る炎と対峙するのは「い組」の町火消し。「ぼや金」こと小櫛はこうした火事に胸を高鳴らせたのでしょう(『月百姿』「烟中月」月岡芳年 画)
これは江戸時代末期の事件や噂話を集めた『藤岡屋日記』に書かれた話。

ペリーが黒船で来航する前年の嘉永4年(1852年)の春、江戸は牛込から四谷にかけて寺で不審火が相次ぐという事件がありました。

それからしばらくして同年の夏、またもや四谷の宗福寺という寺で不審火がありました。この時、寺の小僧が不審者を捕らえましたが、その正体はなんと武士。しかも、江戸の治安を守る同心(注 後述)というから驚いた

男の名は小櫛金之助(35)。すぐさま奉行所にしょっぴかれ取調べを受けましたが、その供述から小櫛の連続放火魔としての犯行と、火事に対する異常性が浮き彫りになりました。

小櫛はもともと火事が大好きだったらしく、ちょっとしたボヤが起きるだけで「火事だ!火事だ!」と大騒ぎするので、ついたあだ名が「ぼや金」。そんな小櫛が連続放火という大罪を犯すようになったきっかけもやはり火事。

嘉永4年(1852年)の春に四谷で大火事が起きた時、火事現場の近くにあった親戚の家に駆けつけ大いに働き、後日、謝礼をもらいました。火事の高揚、感謝、満足感……。ますます火事にぞっこんになった小櫛は、火事が起きるとすぐに現場に駆けつけ、誰よりも熱心に働きました。ここまでは問題ない。

しかし、火事が多かった江戸時代とはいえ、そうそう都合よく起きるはずもない。ぼや金は火事がない日がしばらく続くと、居ても立ってもいられなくなる。そしてついに自ら火を付けたのでした。

小櫛が放火したのは寺ばかり5件。しかも昼間の犯行。それはなぜかというと、「夜が怖い」とかで昼間にしか放火ができず、そうなると昼間にあまり人がいない寺がうってつけだったから。

さて、火事にとりつかれた放火魔・小櫛の末路はといいますと……。江戸時代、放火は大罪。5件もの放火を犯した小櫛は獄門にかけられることが決定しましたが、処刑の前に牢屋で獄死したとか。

※同心……同心とは、町奉行の配下で江戸市中の警察、司法、行政の任務にあたる与力(よりき)の下にあってその任務を補佐する下級武士。時代劇ドラマ『必殺仕事人』シリーズの主人公・中村主水の役職も同心。

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江戸時代後期の歌舞伎界に、8代目・市川団十郎という人気、実力ともに比類なきトップスターがいました。しかし、彼は突如みずから命を絶ってしまい、江戸中に衝撃をあたえました。

事件簿その6
当代きっての歌舞伎役者、人気絶頂のなか謎の死

トップスター8代目市川団十郎、自殺


自殺した8代目市川団十郎の死絵のひとつ
8代目市川団十郎の死絵のひとつ。女性ファンらが嘆き悲しんでいます
江戸時代後期、江戸生まれの人気役者が歌舞伎界に君臨していました。

その名は、8代目市川団十郎。

初舞台を踏んだのは、なんと生後1ヶ月。わずか10歳にして8代目市川団十郎を襲名したといいますから、よほど才能があったんでしょう。ちょっと面長のイケメンで、上品ながら色気があり、愛嬌があるのに嫌味がない。

さらに、セリフ回しが巧みだというんだから、人気が出ないはずはありません。ぜいたくを禁じる天保の改革で大ダメージを受けた歌舞伎界の人気を復活させたのは、8代目市川団十郎のおかげとまでいわれるほどの人気を誇りました。

しかも、性格までよくて誰からも愛されたという非の打ち所のない人物でした。まさに順風満帆――と思われたのですが……。嘉永7年(1854年)7月、32歳の8代目団十郎、突如自ら命を絶ちました。大坂で舞台に立っていた父・7代目団十郎を訪ねて大坂にやって来ていた時のことでした。

当代一の人気役者の突然の死は世間に大きな衝撃を与えました。当時、人気役者が亡くなると訃報と追善をかねて「死絵(しにえ)」という浮世絵が刷られたのですが、8代目団十郎の死絵は異例ともいえる200種類以上が発売されたといいます。今なら連日ワイドショーやネットニュースで大騒ぎ、という感じでしょうか。

なお、自殺の理由については諸説語られていますが、今もって真相は謎です。

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