四畳半に4人家族で暮らす!? 江戸の賃貸住宅「長屋」の暮らし【性生活は?】

  • 更新日:2017年8月18日
  • 公開日:2016年3月21日

江戸庶民の住まいといえば、落語や時代劇でおなじみの集合住宅「長屋」。プライバシー皆無だけど格安で意外に便利だった長屋の暮らしをまとめました。

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長屋で暮らす人々(『絵本時世粧(えほんいまようすがた)』より/歌川豊国 画)
洗濯をする女性、子どもをおんぶする女性、水を運ぶ力持ちの女性など、長屋で暮らす人々が生き生きと描かれています。(『絵本時世粧(えほんいまようすがた)』より/歌川豊国 画)

江戸の町人が片寄せあって暮らす「裏長屋」ってなんだ?


一般にイメージする「長屋」というのは、正確には「裏長屋」「裏店(うらだな)」と呼ばれるものです。一方、「表長屋」「表店(おもてだな)」もありまして、表通りに面していることからこう呼ばれます。

長屋の表店(『類聚近世風俗志』より)
表通りから奥へ続く道の入口には木戸があり、両脇には町内警備の役目を果たした「自身番所」と「番人小屋」が。さらにその隣は店舗になっており、これが表店。(『類聚近世風俗志』より)

「親も同然」といわれた長屋の大家、現在のアパート大家とは別物!?



長屋は基本的に借家であり、管理人は「大家」、借りている人は「店子(たなこ)」と呼ばれました。時代小説に登場する「差配さん」は大家さんのこと。長屋の物件オーナーは裕福な商人などの地主で、江戸時代の大家はあくまで雇われ管理人です。

大家はただ管理人というだけでなく、店子の世話役であり責任者でありました。そのため「大家は親も同然、店子は子も同然」とも言われます。

大家の仕事内容をざっと並べますと――



  • 店賃(家賃)の取立て

  • 店子の身元調査と管理

  • 長屋の修繕(共同井戸やトイレ含む)

  • 夫婦喧嘩などもめごとの仲裁 (!?

  • 冠婚葬祭の手配

  • 結婚相手の斡旋

  • お金の用立て

  • 旅行に必要な手形の手配

  • 夜回りと火の番

  • 奉行所からの町触(まちぶれ/町人に対して出された政策のこと)を店子に伝達




などなど。

店子が問題を起こし、町奉行所にしょっぴかれたりした場合は同行したり身元引受人にもなりました。もし罪人が出た時は連帯責任を負わされるなど、まさに親も同然。ちなみに、大家は裏長屋の一角に住んでいたり、表店の主だったりと常に店子に目が行き届くよう近くに住んでいました。

多種多様な人が住む長屋。大家には“人を見る目”が必要(『膝栗毛』より)
多種多様な人が住む長屋。その責任者である大家には“人を見る目”が必要とされました(『膝栗毛』より)
そんな責任重大な大家さんですが、“役得”もありました。それは、長屋の共同トイレにたまった糞尿を売ったお金が丸々ふところに入ること。この時代、糞尿は肥料として重宝され、江戸では近郊の農家がわざわざ買い取りに来ていました

下肥買いとよばれる江戸時代の排泄物回収人(『滑稽臍栗毛』より)
肥桶をかついで排泄物回収にまわる「下肥買い(しもごえがい)」という職業がありました(『滑稽臍栗毛』より)
糞尿売却代(下肥料)はなかなかの収入で年間数十万円〜数百万円にも!(店子の人数による)。余談ですが、排泄物にはランクがあり、いいものを食べていた大名や大商人の屋敷から出る排泄物は、貧乏長屋の排泄物より値段が高かったとか。

「店中(たなじゅう)の 尻で大家は 餅をつき」なんて川柳もあります。

大家は年末に正月用の餅を店子に配る慣習があったんですが、その餅代は店子の糞尿代でまかなっているんだよ、というような意味です。糞尿が餅として還元され、それが再び糞尿となる。これもまたリサイクルです。

裏長屋の暮らしをのぞいてみよう!



ひとくちに「裏長屋」といっても間取りはさまざま。6畳ワンルームの激狭タイプもあれば、2階建てのメゾネットタイプもありました。

室内をご紹介する前に、まず「割長屋(わりながや)」と「棟割長屋(むねわりながや)」のお話を。雑イラストにするとこんな感じ。

「割長屋(わりながや)」と「棟割長屋(むねわりながや)」



割長屋

1軒の建物を横に区切ったもの。入口の反対側が窓などになっており通気性や採光にも優れていました。

棟割長屋

1軒の建物を横に区切り、さらに真ん中で縦半分に分割したもの。狭いうえに3面が壁で窓もないので昼も暗い…。そして三方から生活音が丸聞こえも、激安家賃で需要が多かった。代表的な間取りは6畳ワンルームの通称「九尺二間(くしゃくにけん)」。間口が九尺(約2.7m)×奥行が二間(約3.6m)だったことからこう呼ばれます。




九尺二間の室内は、こんな感じ。

裏長屋の代表的な間取り

畳敷きの部分は4畳半で、残り1畳半が玄関兼台所となっていました。じつにコンパクト。

深川江戸資料館で再現された長屋内部を見てみると、

裏長屋の代表的な間取り
深川江戸資料館で再現された長屋内部。画像引用元:かぐやひめのぼちぼちいこか日記
入口である引き戸の障子を開けると部屋全体がいきなり丸見え。ちなみに入口の「むきみ」「政助」の文字は、アサリやシジミの行商人(棒手振)=「むきみ」をやってる政助さんという意味。

部屋の隅には商売道具である天秤棒と桶が置いてあるので、居住スペースがいよいよ狭い。ここにたとえば4人家族で暮らします。格安の部屋なのか畳ではなく筵(むしろ)が敷いてあるだけ

台所は、

江戸時代の長屋の台所
画像引用元:飛べ飛べみみとごろのブログ
コンパクトで機能的なキッチンです。写真左にあるのは水瓶(みずがめ)。共同井戸で汲んだ水や水売りから買った水を飲用や煮炊き用として貯めていました

その隣にあるテーブルのようなものは「流し」です。流しの上にはまな板や包丁、桶なんかが置いてあります。写真右にあるのが竈(かまど/へっつい)です。

壁につけられた棚には味噌などの調味料、すり鉢、ザルなどが丸出し収納。片付けコンサルタントが発狂しそうです。板葺き(いたぶき)屋根には煙出し用の天窓もついていました。

もう少し広い間取りの部屋や2部屋タイプのものは手習いや三味線などの師匠に人気でした。

裏長屋のとある部屋(広い間取りの部屋や2部屋タイプ)
画像引用元:歴史・文学研究家&作家の部屋
こちらも深川江戸資料館で再現。設定は、三味線や裁縫、手習いなどを教える師匠・“於し津(おしづ)”という女性が居住。たぶんこんな感じだったのでしょう。

裏長屋のとある部屋(広い間取りの部屋や2部屋タイプ)(『江戸見世屋図聚』より/三谷一馬 画)
長唄の師匠。若い男性は美人師匠を目当てに稽古に通ったとか(『江戸見世屋図聚』より/三谷一馬 画)
話を再び室内に戻して。こちらはちょっと広めで畳敷き部分だけで6畳あります。立派なタンスもあり、なかなかの暮らしぶり。ちなみに、タンスのない家では代わりに葛籠(つづら)を使いました

タンスの奥に低い屏風がありますが、これは「枕屏風(まくらびょうぶ)」と呼ばれるもので、畳んだフトンや枕など寝具の目隠しとして使われました。枕屏風の手前にあるのは江戸時代の照明器具である行灯(あんどん)です。部屋の中央には暖房器具である角火鉢も見えます。

さて、どの部屋でも見当たらないのがトイレお風呂トイレは敷地内に共同のものがあったのでみなそこを使いましたが、お風呂はどうしていたかといいますと、湯屋(ゆや)、つまり銭湯に通っていました

肌競花の勝婦湯(豊原国周 画)
(『肌競花の勝婦湯』豊原国周 画)

アットホームで連帯感はバツグン!でもプライバシーは皆無



江戸時代、裏長屋で暮らす庶民は家族持ちでもこの狭いワンルームで暮らしていました。ガラリと入口を開ければ家全体が丸見えで、壁が薄く生活音は丸聞こえなのでプライバシーは皆無です。

たとえばこんな川柳があります。

「椀と箸 持って来やれと 壁をぶち」

隣の住人のお腹が鳴るのが聞えちゃったんでしょうね。「おーい、今から飯だから椀と箸持ってお前もうちにこいよ」なんて言いながら壁をドンドン叩いているわけです。現代なら考えられない密な関係です。

お腹の鳴る音が聞えるほどですから、夫婦喧嘩の声はもちろん“夜の営み”の声や物音なんかも筒抜けだったんだとか。

江戸時代、長屋での性生活は筒抜けだった

ゲスな男性連中は、やれ「あそこの女房は声が大きい」だのやれ「いい声を出す」だのあけっぴろげに言い合ったりもしたそうで、女性にしたらたまらない。狭い部屋に子どもも寝ていたり、隣近所の耳もあったりで裏長屋での性生活はたいへんです。

とまあ、こんな感じで隣近所で密な裏長屋の生活。“その日暮らし”が多かったこともあり、「親も同然」といわれた大家の管理下のもと、「子」である店子たちもお互い助け合って生活していました。裏長屋は賃貸住宅というよりひとつのコミュニティだったんですね。

ちなみに、気になるお家賃は一般的な「九尺二間」の部屋で月額400~500文(約8,000円~1万円)といったところでした。行商人(棒手振)の月収がだいたい8~10万円くらいだったそうなので、現代の感覚では激安です。なお、悪質な家賃滞納者には強制退去処分が下されることもあったとか。そのあたりは現代と似ていますね。

江戸っ子自慢の上水がひかれた共同井戸と下水



部屋から外に出てみると。裏長屋には長屋の建物と建物の間を縫うように細い路地が走っていました。その幅は約1.8~3.6m。敷かれたどぶ板の下にあるのは、なんとビックリ、下水道

各部屋の流しや井戸端から出た汚水(といっても現代ほど汚れていない)は、この下水道を通って堀や川に流れて、最終的には海へと出ていきました。

下水のゴミが堀や川に流れ出ないよう排水場所には杭や柵が設置されていたというから心配りが行き届いています。また、単に溝を掘って水を流すだけでは、あたり一面ドロだらけになってしましますので、“コ”の字の木製の樋(とい)を敷きました。

江戸時代の長屋の下水道(『江戸名所図会』「竹女故事」)
(『江戸名所図会』「竹女故事」)
画像左、女性の背後に流しがあります。流しからのその下にある下水溝に出て、井戸端脇から伸びる下水溝から堀や川へと流れていきました。ちなみに、この絵では下水溝の上には板ではなく石でフタがされています。

下水道の次は上水道を見てみましょう。

江戸時代の長屋における井戸と上水道

写真は発掘された江戸の井戸(中央の丸いやつ)。木製の筒が四方に伸びていますがこれが水道管。「木樋(もくひ)」と呼ばれ、神田上水・玉川上水の水がこの木樋を通って共同井戸までひかれました

江戸時代、上水道が完備されていない場所はたくさんありましたが、江戸にあっては裏長屋の住人も水道水を利用していたんです。

そのため、「水道の水で産湯につかった」といって江戸っ子たちは自慢にしました。で、共同井戸に貯められた水を桶で汲みだして、野菜や食器を洗ったり、洗顔したり、洗濯したりしたのです。

江戸時代の長屋の共同井戸(井戸端)(『冬のあした』歌川国貞 画)
(『冬のあした』歌川国貞 画)
こちらの絵は、雪が積もる冬の朝の風景を描いたものですが、井戸端にたくさんの住人が集まっています。おしゃべりしながら、水を汲んだり、なにかを洗ったり楽しそうです。今でも“井戸端会議”なんて言葉がありますが、長屋の共同井戸は住人が集うコミュニケーションの場だったんですね。

おどろくほど整備された上下水道の恩恵を受けていた長屋の住人たちですが、では、どれくらい水道代をとられていたかといいますと……

水道代0円

なんとタダだったのです。上下水道の管理・維持には相当な費用がかかりましたが、これらはすべて土地の所有者である地主の負担で、所有する土地の間口に応じて分担金を支払っていました。

まぁ家賃に含まれていたんでしょうが、それにしても高い水道代を支払っている現代人からするとなんともうらやましい話です。

上下水道が完備された裏長屋ですが、共同のトイレと井戸、ゴミ置き場すべてが近くにあったことから衛生面ではイマイチだったようで、コレラなどの感染病が発生すると蔓延する一因となったともいいます。

“狭いながらも楽しい我が家”なんて歌がありますが、そんな雰囲気の長屋暮らし。それにしても裏長屋の住人たちは、現代人のドライな隣人関係からするとビックリするほど密な関係にあったようですね。

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カテゴリ:生活

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