深川江戸資料館では生活だけでなく、信仰心も再現されています。
たとえば、これ、なにかわかりますか?
これは裏長屋に住む米屋の職人・秀さんの家の入り口に飾られているものですが、疱瘡除け(読み方:ほうそうよけ)のお守り。
疱瘡(天然痘)は江戸時代、非常に恐れられていた伝染病で、小さい子どもなどは疱瘡にかかると死亡することが多かったのです。幸運にも生き延びることができても顔にアバタが残ったり……。
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疱瘡は「疱瘡神」という神さまが起こす病気という言い伝えが古くからあり、その疱瘡神は赤い色や犬が苦手だといわれていました。なので、疱瘡にかかならいようにするため、小さな子どものいる家などでは赤だけで描いた絵(赤絵)や赤いダルマ、犬の張り子などをお守りとして置いたのです。先ほどのお守りにも赤い御幣がついていますよね。笹も古来、神聖な植物とされていたのでお守りになったのでしょう。
また、藁でできた丸いものは「桟俵(さんだわら)」というもので、米俵の両端に当てる藁のフタです。疱瘡が流行したらこれを川に流す(疱瘡神送り)らしい。
「米屋の秀さんは2歳の子どもを持つ若夫婦」という設定がここで生きてます。ちなみに米屋の秀さんの家には張り子の犬も飾ってありました。
さらに秀さんの家の入り口にはこんなものも。
「久松さんはただいま留守です」ということなんですが、この家族に久松という名の人はいません。じつはこれインフルエンザ除けのおまじない。
ちょっと説明しますと、江戸時代、インフルエンザでも多くの人が命を落としました。大流行したインフルエンザには「お七風邪」とか「谷風邪」とか名前が付けられたんですが、そのなかに「お染風邪」というのもありました。
お染というのは江戸時代中期に実在した女性で、大坂の裕福な商店のお嬢さんでした。それが丁稚の久松と恋仲になり、身分違いの恋に悩んだ2人は心中という道を選びます。この心中事件はすぐに「お染久松もの」として歌舞伎や浄瑠璃になり、現代でも上演されています。
で、インフルエンザを「お染風邪」と呼んだこともあるので、「久松るす」のお札を貼ることで「お染さん、あなたの恋しい久松さんは留守なのでこの家には入らないでくださいね」と願ったのです。
さりげない飾りや置物にも両親の子を想う気持ちが溢れていることを知ると感動します。
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