次は、耳鳥斎の没後に出版された『絵本古鳥図賀比(えほんことりつかい)』(1805年)。「大胆者」と「臆病者」、「祝儀」と「不祝儀」など対照的な事柄を耳鳥斎らしいユーモラスなタッチで描いた作品です。
1枚絵に込められたストーリー性
こちら、「臆病者」の図。
大の大人、しかも武士ともあろう者が1匹のカタツムリにビビりまくっています。文を読むと、武士たちは「待って待って、カタツムリいるよぅ…」「こいつ、2本のツノを振り回して、こっちに立ち向かってくる気だぜ…!」なんてことをへっぴり腰で言ってます。これは確かに臆病者だ。
そんな臆病者の武士をバカにしたように、「カタツムリの這ったあとは“アホよアホよ”と書いてあるようにみえる」と、書いてあるのがまたオモシロイ。そう言われるとカタツムリのつぶらな目には憐憫の色が……。
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ちなみに「臆病者」の前ページに収録されているのは「大胆者」。
見開き4ページにわたって描かれた「大胆者」は、障子からのぞくブキミな化け物にも動じない豪胆な武士。とりあえず、エロ目のオッサンみたいな化け物よ、君は鼻毛を切ろうか。
同作品からもうひとつ。今度は「養生」と「不養生」。
こちらは「養生」と題された絵。いかにもお金持ちそうな男性が、栄養満点で体もあったまる玉子酒を飲んでいます。養生してますね~。
対してこちらは「不養生」。もろ肌脱いで見るからにだらしなさそうな男たちが食事中。お腹も丸いが、おでこも丸い。どうやら食べているのはフグ? 危ないよ!不養生ってレベルじゃないよ!!
ここで「絵師・耳鳥斎について」第二弾を。
ご紹介したように耳鳥斎の作品の特徴は「ユーモラス」。大坂は今でも“笑い”に厳しい土地ですが、江戸時代もそれは同じだったようで、大坂出身の耳鳥斎も「おかしみ」「ユーモラス」にあふれる絵を描きました。
「世界ハ是レ即チ一ツノ大戯場」
これは耳鳥斎がよく言っていたといわれる言葉。身分に縛られ、家に縛られ、しきたりに縛られ、いろんなものに縛られる堅苦しい世の中を「戯れの場」として笑い飛ばそうとしたのでしょう。
さて、お次も代表作のひとつ。
リズミカルな構図の心地よさ
猫、かわいい。人もかわいい。屋根すらもかわいい。
かわいいだけでなく、斜めに並んだ人の列と傾斜した屋根と瓦の丸が対をなし、心地よいリズムを生んでいます。そして、アクセントに猫。二重、三重になった輪郭線もオリジナリティ高し。
これは、耳鳥斎の没後に出版された『かさねつらね』という作品(1803年)で、上方の年中行事が描かれています。
もう一丁、同作品から。
雷さまの表情と躍動感あふれるポーズが秀逸ですねぇ。雷鳴に驚いてひっくり返る人もいい味出してます。木から落っこちてきたんでしょうか。