• 更新日:2019年9月16日
  • 公開日:2016年7月3日


銭湯を舞台に江戸庶民をリアルに描き大ヒット


<4作目>

『浮世風呂』(式亭三馬 作/北尾美丸 画)
『浮世風呂』(1809~13年)
式亭三馬 作/北尾美丸 画


こちらも「滑稽本」のヒット作。舞台は江戸っ子たちの社交場としてにぎわった銭湯。男湯編と女湯編にわかれています。

銭湯にやってきた人々が主役で、やりとりされる軽妙な会話が本作のキモ。リアルに描かれた風俗や話し言葉でつづられた会話からは江戸時代の空気が感じられます。

本作が完結したのと同じ年、舞台をやはり庶民の社交場・髪結い床(今でいう床屋)に移した『浮世床(うきよどこ)』がスタート、こちらも大ヒットしました。

ここがヒットのポイント!
作者・三馬の落語好きならではのテンポのよい会話。しかも話し言葉で書かれているので脳内再生も簡単。風俗などもリアルだから読者も共感しやすい。

江戸時代の床屋(『浮世床』より)
江戸時代の床屋は男性客専門。お客である男性たちは、髪を切るだけでなく、ダラダラしたり話しに興じたり(『浮世床』より)
ちなみに落語の演目でも『浮世床』というのがあり、床屋を舞台にしたオムニバス形式の落語です。

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女性のハートをがっちりつかむも発禁となった恋愛小説


<5作目>

『春色梅児誉美』(為永春水 作)
『春色梅児誉美(しゅんしょくうめごよみ)』(1832~33年)
為永春水 作


~あらすじ~
吉原の遊女屋の養子・丹次郎は女性にモテモテの優男。そんな丹次郎にゾッコン惚れ込んでいるのが、許婚の美少女・お長、恋人の売れっ子深川芸者・米八(よねはち)、米八の朋輩芸者・仇吉(あだきち)の3人。複雑に入り組む四角関係の恋模様の結末やいかに。

ターゲットを女性に絞った恋愛小説「人情本」の大ヒット作です。読者である女性たちは、丹次郎をめぐる3人の女性たちに感情移入しながら、恋の疑似体験をしました。恋に恋するお年頃の女子たちはそりゃもう夢中で読んだことでしょう。

しかし、「天保の改革」で本作をはじめとする「人情本」は“風紀が乱れる”との理由からすべて絶版処分が命じられてしまいました……。女性読者、ガッカリ。

『春色梅児誉美』の大ヒットで一躍人気作家になった作者の為長春水も手鎖50日の刑に処せられ、失意のためか翌年に他界してしまいました。

ここがヒットのポイント!
キャラクターの異なる3人の女性の誰かに感情移入しながら恋の疑似体験。きわどいラブシーンにドキドキ。当時流行のファッションを反映させた挿絵もポイント高し。

次の作品も発禁処分。

大奥を描いた?噂により絶版となった未完のベストセラー


<6作目>

『偐紫田舎源氏』(柳亭種彦 作/歌川国貞 画)
『偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)』(1829~42年)
柳亭種彦 作/歌川国貞


~あらすじ~
室町幕府の8代将軍・足利義政の妾腹の子で美貌と勇気をかねそなえた貴公子・光氏(みつうじ)は、将軍の座を狙う山名宗全を抑えるため、『源氏物語』の光源氏のような大勢の女性たちとの恋愛遍歴を装いながら、宗全が盗んで隠していた足利家の宝を奪い返していく。さらに、光氏は須磨・明石に流寓して西国の山名勢力を牽制しつつ、都にはびこる宗全一味を知謀により殲滅、京に凱旋し将軍後見役にまで昇りつめるが・・・・・・。

平安時代に書かれた古典の名作『源氏物語』を室町時代に時代を移し翻訳した伝奇小説。通称、『田舎源氏』。毎年数編が刊行され、一説に各編1万部ともいわれる空前のベストセラーとなりました。

しかし、「天保の改革」が始まると暗雲が……。「主人公の光氏は11代将軍徳川家斉をモデルにしたのでは」「贅沢で豪華な世界は今の大奥がモデルでは」などの噂が立ち、38編152冊続いた大ベストセラーにもかかわらず絶版を命じられ、未完に終わりました。またもや女性読者ガッカリ。

ここがヒットのポイント!
古典に造詣が深い作者・柳亭種彦の絶妙な筋立てと、絵師・歌川国貞の歌舞伎趣味の華麗な挿絵がウケて女性読者を中心に大ヒット。

『田舎源氏』の作者・柳亭種彦の肖像画
作者の柳亭種彦は『田舎源氏』が絶版になったあと、まもなく世を去りました。急死の理由については、ショックによる病死とも、はたまた自殺とも

寛政の改革パロに幕府激怒! 作品は絶版、作者は断筆


<7作目>

『文武二道万石通(ぶんぶにどうまんごくどおし』(朋誠堂喜三二 作/喜多川行麿 画)
『文武二道万石通(ぶんぶにどうまんごくどおし』(1788年)
朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)作・喜多川行麿 画


~あらすじ~
鎌倉幕府の初代将軍・源頼朝は重臣・畠山重忠に命じ、鎌倉にいる大名たちを文武どちらかに優れているかふるいにかけさせ、どちらにも優れないぬらくら武士たちを箱根の湯につけて文武の道に精進するよう仕向ける。

舞台は鎌倉時代になっているものの題材になっているのは当時行われていた老中・松平定信による苛烈な「寛政の改革」で、大名たちに対して行われた文武奨励策を皮肉ったもの。

風刺の効いたパロディは庶民たちに大いにウケ、古今未曾有の大流行となったが、当然というかなんというか幕府の逆鱗に触れ、ほどなくして絶版となった。

ここがヒットのポイント!
出版統制や風紀粛正など寛政の改革は庶民の生活にも大きく影響し、改革を滑稽に風刺した同作は改革に不満を持つ人々の溜飲を下げさせた。

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