どんどん『略画式』シリーズいってみましょう。
余分なものはいらない
隅田川の近く、三囲(みめぐり)を山水画風に描いた作品。三囲神社の鳥居が見えます。手前には隅田川の堤に係留された舟もありますね。それにしても、超シンプル。余白の美です。でも、寂しさよりむしろ懐かしさ、温かさを感じます。
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花の美しさそのままに
さきほどの風景画とはうってかわって華やかな作品。ゆりは力強く、あさがおはたおやかに。花それぞれの魅力があふれています。朝顔の青がとっても印象的です。
さらに、ゆるさナンバーワンの作品がずらりとそろった『蕙斎略画苑』(1808年)より。
癒し系の七福神
恵比寿さま、布袋さま、めっちゃいい笑顔。大黒さまは見方によってはなんだか泥棒みたいだ。毘沙門天の大杯をあおる姿を後ろのアングルから、というのがニクイです。弁天さまは……どれが弁天さま!?
いい湯だな~
男性客でにぎわう江戸時代の銭湯(湯屋)のようすですね。いや~、みなさん銭湯をエンジョイしているのが伝わってきます。かかとやムダ毛のお手入れをしている人、歌いながら洗っている人、いろんな人がいて見飽きません。手前のお客さんは番台に座る番頭(左下)に「おやじ、さっぱりしたぜ」とでも言っているみたい。
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怖さゼロ、ゆる~い地獄絵図
北尾政美のタッチによる脱力系地獄絵図。これを見せられて「悪いことすると地獄に落ちるぞ~」と脅されても効果なさそう。右上の血の池地獄に放り込まれた女性たちは、温泉にでもきたかのごとく談笑ムード。このゆるさ、200年前にあったんですねー。
「略画式の蕙斎」と言われてたのは伊達じゃありません。北斎のビシビシ五感を刺激するような作品もすばらしいですが、まったり楽しむなら『略画式』シリーズ、最高じゃないでしょうか。
前述しましたように、『略画式』シリーズは絵のお手本集です。そこで政美があえて筆を省略したのは、「描線に凝るのではなく略して描くことによって、対象物そのものの本質・精神を写すように描こう」としたためといわれています。単なる“ゆるカワ”ではなく、じつに深い。
次ページ:美人画も描いた! 北尾政美の略画式以外の作品を紹介