• 更新日:2017年8月18日
  • 公開日:2016年3月20日


大人気キャラクターとなった心の中の「善玉」と「悪玉」


『心学早染艸』(山東京伝 作/北尾政美 画)、その1
『心学早染艸(しんがくはやぞめぐさ)』
山東京伝 作/北尾政美(まさよし) 画(1790年)


~あらすじ~
「黄表紙は理屈くさいのが嫌われるというけど、今回は理屈くささをあえてネタにしてみたよ」(by京伝
天上界には天帝という偉い神様がいて、シャボン玉のようなものを吹いているという。これが生まれたての赤ちゃんの体に入ると魂となるのですが、最初はきれいな形の魂「善玉」も、飛んでいるうちにゆがんで悪い魂「悪玉」になることも。さて、日本橋の裕福な商人のところに生まれた赤ちゃんにはどんな魂が入ることやら――

上の画像は、生まれたばかりの赤ちゃん(理太郎)の体に入り込もうとする悪玉。天帝がその手を捻りあげ、「ここはワシが押さえる。今のうちに行け!」とばかりに善玉を赤ちゃんのもとに向かわせる

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丸に「悪」と「善」という圧倒的わかりやすさに思わず唸りますね。顔以外はふんどし一丁。このキャラクター造形は完全にマンガのそれです。

『心学早染艸』(山東京伝 作/北尾政美 画)、その2
その後も順調に成長し、絵に描いたようなマジメ好青年となった理太郎(18)。仕事に疲れてウトウトお昼寝中。体の中の善玉も「たまには」と息抜きに出かけようとした……その時!かつて理太郎の体に入り損ねた悪玉が仲間を連れて善玉を捕まえ、まんまと理太郎の体に入り込むことに成功。善玉「む、無念…」。

『心学早染艸』(山東京伝 作/北尾政美 画)、その3
お昼寝から覚めた理太郎、なぜか、「そうだ、吉原行こう」と思いつきふらふら~っと出かけてしまう。おそるべし、悪玉パワー。そして、妓楼に上がった理太郎は遊女にメロメロ。「ボク、こんな楽しいの初めて」。

よく見ると、

『心学早染艸』(山東京伝 作/北尾政美 画)、その3のピックアップ
すっかり理性を失った理太郎を見て、悪玉たちは喜びのダンス。アリャアリャ♪ よいよい♪(地の文ママ)

『心学早染艸』(山東京伝 作/北尾政美 画)、その4の1
いろいろあったが再び体の中に善玉が帰ってきたので、もとのマジメ好青年に戻った理太郎。仕事にも励んでいたが、あの時の遊女から送られた手紙に心が揺れる。その隙にまたしても悪玉が!

『心学早染艸』(山東京伝 作/北尾政美 画)、その4の2
そして、なんと善玉を斬りつけた!悪玉「覚悟しろ~」善玉「ぐわッ、無念なり……」。血しぶきをあげる善玉。ちょっ、なんという展開。あと、さっきからムダに悪玉のポーズがかっこいい。

『心学早染艸』(山東京伝 作/北尾政美 画)、その5
理太郎の心を完全に支配した悪玉は増殖を続け、それとともに理太郎も堕落。飲む、打つ、買うはもちろん、詐欺はするは親不孝の限りを尽くし、ついに勘当されてしまう。かつての好青年は今いずこ……。とうとう実家の蔵に泥棒に入るまでに。悪玉たちは「もっとやれ」とあおりまくり。

それにしても

『心学早染艸』(山東京伝 作/北尾政美 画)、その5のピックアップ
この悪玉軍団、ノリノリである

最終的に盗賊にまで身を落とした理太郎ですが、道理先生という立派な先生に出会い、説教され改心。勘当も解かれて、それからは親孝行に励んだとさ。めでたし、めでたし。

とまぁ、こんなお話なんですが、作中に登場する「善玉」「悪玉」という心を擬人化した愉快なキャラクターが大ウケ、特に喜びのダンスを披露していた悪玉は大人気に。かの葛飾北斎も「悪玉踊り」を当時流行していた踊りのひとつとして描いています。

『踊獨稽古(おどりひとりげいこ)』
『踊獨稽古(おどりひとりげいこ)』

この「悪玉踊り」は歌舞伎にも取り入れられたといいますから、当時の人気ぶりが伺えます。いつの時代もキャラクターものは強いんですね~。ちなみに、「善玉コレステロール」とか「悪玉コレステロール」とか言いますが、これもこの擬人化キャラ「善玉」「悪玉」が語源だとか。すごい!

さて、お次は人気キャラとなった善玉が再び登場する続編です。

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